リーダシップ論の大家であるジョン・P・コッター教授は、リーダーシップについて以下のように述べている。
『組織とは,本来,メンバーの才能を育み,指導力の発揮や失敗や成功から学ぶことを奨励すべきである。
リーダーシップは「スタイル」ではなく「質」である。』
コッター教授は、リーダーシップの本質を研究する中で、10の教訓を導き出している。
教訓1:重要な組織変革を導くのは,どのような手法であれ,息の長い仕事であり,複雑な8段階のプロセスからなる。
教訓2:変革は,数次にわたる複雑なプロセスを経て完遂される。
・抵抗が強いほど,変革を成し遂げるのは難しい。利益が大きいほど,正しいビジョンを持つ必要性は大きい。組織の底辺の人々への依存度が高いほど,彼ら彼女らの参加を促す必要性は高い。
教訓3:20世紀の歴史とその時代に培われた企業文化の影響を受けた人々は,大きな変革を実行しようとする際に,皆同じような過ちを犯す(これには多くの理由がある)。有能で正しい志を持ったマネージャーですらその例外ではない。
教訓4:リーダーシップとマネジメントは別物である。
・意義あり変革を導く原動力は,リーダーシップであって,マネジメントではない。
・リーダーシップとは,ビジョンと戦略をつくり上げ,戦略の遂行に向けて,それに関わる人々を結集し,ビジョンの実現を目指している人々にエンパワーメントを行うなど,障害を乗り超えてでも実現できることである。
・マネジメントとは,計画立案,予算作成,組織化,人員配置,コントロール,そして問題解決を通して,既存のシステムの運営を続けることである。
・マネジメントは,現在の組織の運営システムをうまく機能させ続けるが,リーダーシップは,組織の運営システムそのものをよくするために,大きな変革を行う。
教訓5:変化のスピードが速まっているため、組織を動かすうえでのリーダーシップの重要性が高くなっている。
・マネジメントとリーダーシップの時間割合
1980年代末まで | 1990年代以降 | |
製品のライフサイクル(年数) | 15年 | 4年 |
優秀なトップ・エグゼクティブの場合:
マネジメント対リーダーシップ |
6:4 | 2:8 |
教訓6:組織を動かす人々は,マネジメントをリーダーとしての仕事の両方をこなすようになっている。
・マネージャーとしての仕事:計画と予算を策定し,階層を活用して,職務遂行に必要な人脈を構築し,コントロールすることによって,任務をまっとうすることである。
・リーダーとしての仕事:ビジョンと戦略をつくり上げ,複雑ではあるが,同じベクトルを持つ人脈を背景に実行力を築き,社員のやる気を引き出すことで,ビジョンと戦略を遂行する。
・マネージャーとリーダーに共通の仕事:課題を設定し,課題達成を可能にする人的ネットワークを構築し,課題を達成させる。
教訓7:マネジメントは組織のフォーマルな階層を通して機能する。リーダーシップは,インフォーマルな人間関係に依存する。
教訓8:リーダーは,複雑かつインフォーマルな人間関係を操りながら組織を動かす。
教訓9:命令するという仕事はさほど重要ではなくなっている。周囲の人々と仕事のうえで良好な関係を築くことが課題として重みを持つようになってきている。
教訓10:有能なマネージャーとは,①現状の維持と改革を同時に取り組み,②縦横の人間関係を良好に保ち,③命令よりも質問の数が圧倒的に多い。
・変革への準備ができている組織の特長(21世紀のリーダーシップ)は、どんなときでも危機感を高め,慢心を避けようとする。
また、チームワークを重視し,必要があれば変革の推進に向けて組織を統合することができる。
・あらゆる階層が常にビジョンを抱き,必要に応じて,その内容を修正し,多くの人に絶えず伝達する。そこで働く社員は,新しい目標に挑むように,いつでも権限が与えられている。
マネジメント | リーダーシップ | |
役割
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・演繹的に計画を策定する。
・現在のシステムに秩序と一貫性をもたらす。 ・複雑性に対処する。 |
・帰納的に針路を設定する。
・現在のシステムを改革する。
・変革を推進する。 |
流儀
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・込み入った環境をうまく泳ぎ切るために,計画の立案と予算策定から着手する。
・将来の目標(翌月,翌年)を定め,その達成に向けて詳細な実行ステップを決め,計画を完遂するために経営資源を割り当てる。 |
・発展的な組織変革の端緒を開くために,まず針路を設定する。
・将来ビジョンを実現するための変革を用意する。 |
・組織化と人材配置によって計画を抜かりなく達成することに取り組む。 | ・1つの目標に向けて組織メンバーの心を統合する。
・互いに手を取り合って,ビジョンを理解し,その実現に尽力できる人々に新しい方向性を伝える。 |
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手段
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・計画を達成するための手段は,コントロールと問題解決の2つである。
・フォーマル,インフォーマルの両面から,計画と実績を綿密に比べ,両者の間にギャップが生じていないか目を光らせ,問題があれば,それと解決すべくプランを準備する。
・フォーマルな組織構造が,マネージャーたちの行動を条件づける。 ・いかにうまく組織を設計するかが決め手。
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・ビジョンを達成するための手段は,動機づけと啓発の2つである。
・価値観や感性といった根源的ではあるが,往々にして眠ったままの欲求に訴えかけることで,大きな障害を乗り越え,皆を正しい方向に導く。
・健全な企業特有のカルチャーを基盤にしたインフォーマルで緊密な人間関係がリーダーたちの行動を条件づける。 ・いかにコミュニケーションを図るかが決め手。 |
社員へのアプローチ | ・物事をできるだけ計画的に忠実に,しかも効率的に進めるために組織編成を行う。
職務体系,指揮命令系統の決定,適材適所の人員配置,必要に応じた研修の実施,社員への計画の説明を行う。 ・計画に向けた報奨制度の用意,実施状況を把握するための仕組みづくりを行う。
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・リーダーにとっては,信頼を得られるかどうか,伝えようとする内容を信じてもらえるかどうかが,腕のみせどころ。
・信頼されるには,それぞれの実績や誠実さ,信頼製についての評判はどうか,言行が一致しているか,伝えようとするメッセージの内容はどうか。 ・組織全体に明確な針路が示されていれば,全員が同じ目標に向かうことができ,外部環境の変化にうまく対応できない無力感にさいなまれず,行動できるようになる。 |
企業変革の8段階
第一段階:緊急課題であるという認識の徹底
市場分析を行い,競合状態を把握する。
現在の危機的状況,今後の表面化しうる問題,大きなチャンスを認識し議論する。
第二段階:強力な推進チームの結成
変革プログラムを率いる力のあるグループを結成する。
一つのチームとして活動するように促す。
第三段階:ビジョンの策定
変革プログラムの方向性を示すビジョンを策定する。
推進チームが手本となり,新しい行動様式を伝授する。
第四段階:ビジョンの伝達
あらゆる手段を利用し,新しいビジョンや戦略を伝達する。
推進チームが手本となり,新しい行動様式を立てる。
第五段階:社員のビジョン実現へのサポート
変革に立ちはだかる障害物を排除する。
ビジョンの根本を揺るがすような制度や組織を変更する。
リスクを恐れず,伝統にとらわれない考え方や行動を奨励する。
第六段階:短期的成果を上げるための計画策定・実行
目に見える業績改善計画を策定する。
改善を実現する。
改善に貢献した社員を表彰し,報奨を支給する。
第七段階:改善成果の定着とさらなる変革の実現
勝ち得た信頼を利用し,ビジョンに沿わない制度,組織,政策を改める。
新しいプロジェクト,テーマ,メンバーにより改革プロセスを活性化する。
第八段階:新しいアプローチを根付かせる。
新しい行動様式と企業全体の成功の因果関係を明確にする。
新しいリーダーシップの育成と引継ぎの方法を確立する。
参考文献:
リーダーシップ論―いま何をすべきか (ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス経営論集) 単行本 – 1999/12
ジョン・P. コッター (著), John P. Kotter (原著), 黒田 由貴子 (翻訳)
著者紹介:
ジョン P・コッター
John P. Kotter
国籍:米国
肩書:ハーバード大学ビジネススクール名誉教授
生年月日:1947
出生地米国: カリフォルニア州
学歴:マサチューセッツ工科大学卒;ハーバード大学卒
経歴:
・ハーバード大学などを経て,ハーバード大学ビジネススクールの松下幸之助記念講座名誉教授。史上最年少の33歳で同校終身教職権を取得した。
・企業におけるリーダーシップ論の権威として国際的に知られ,グローバルリーダーに対する変革的リーダーシップの指導を目的としたコッター・インターナショナルの創設者でもある。
・著書に「パワー・イン・マネジメント」「ザ・ゼネラル・マネジャー」「組織革新の理論」「パワーと影響力―人的ネットワークとリーダーシップの研究」「変革するリーダーシップ」「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」「21世紀の経営リーダーシップ」などがあり,著作は120ケ国語以上に翻訳されている。
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