1.モチベーションに関する新たな知見
組織行動学,心理学,経営学における最新の実証研究で,組織成員のモチベーションの水準が,組織のパフォーマンスの水準に正の強い相関関係があることがわかってきました。米国マッキンゼーの元パートナーであるニール・ドシ,リンゼー・マクレガーなどが中心となり開発した「総合動機指数」は,業績との相関関係が0.8と非常に高いことで知られています。
これまで,多くの経営者は,定性的あるいは直観的に,組織成員のモチベーションを高めれば,組織のパフォーマンスが高まることを知っていましたが,この総合動機指数の開発によって,モチベーションを,定量的に測定し,時系列または様々な属性で層別による比較が可能となり,財務数値など重要な経営指標のように分析できる時代になりました。同指数が広範に活用されるようになれば,業界平均との比較が可能になる日も遠くないと思われます。
2.閉塞感が漂う組織風土
戦後から1980年代末まで,我が国の多くの企業が,新卒採用,終身雇用,年功重視の人事システムによって,忠誠心の高い社員による知識・技術,技能の内部蓄積を行い,組織の学習能力を高め,国際的な競争力を培い繁栄してきました。一方,社会の構成単位である家族,地域コミュニティは,こうした企業のニーズに対応しながら,その社会的役割を変化させてきました。しかしながら,90年代前半のバブル崩壊とその後の急激な円高を背景に,戦後の繁栄を謳歌してきた多くの大手製造業が,大幅なコスト削減と海外への生産移転を進め,国内従業員のリストラに踏み切りました。戦後,多くの働き手が抱いていた企業に対する忠誠心は薄れ,個人の成果重視の評価制度の導入によって,社内競争が激しくなり,同僚との強い紐帯が弱体化してしまいました。
労働集約的かつ標準化になじむ業務の多くが,製造業,サービス業問わず,賃金の安い非正規労働者やパート社員に置き換わりました。ひとつの組織に多様な就業形態,賃金水準の社員が混在し,また,転職市場の拡大により雇用の流動性が高まる中,組織への求心力は深刻なまでに低下しつつあります。
これまで我が国企業の強みであった自発的な知識・技術および技能の蓄積と伝承といったダイナミックな進化プロセスが滞り,それに代わる新たな進化プロセスを,いまだ見出せない状態が続いているようです。
3.優れた社風の構築に向けて
ピーター・ドラッカーは,1997年に「ネクスト・ソサエティー」の中で,21世紀に入り,企業の特殊関係的な知識・技術・技能を持つ肉体労働者から,専門知識を有した知識労働者にとって代わる時代になると予測しています。知識労働者は,生産手段としての知識をポータブルな形で所有します。これまで経済が社会を変えてきたが,今後は,社会が経済を変えると予言しています。
ICT分野の権威である米国Wired氏編集長で,著述家のケヴィン・ケリー氏,シリコンバレーのIT起業家として注目されているマーティン・フォード氏によると,昨今のIoT,AI,ロボットなどみられる急速な技術革新により,標準化できる仕事,予測可能な業務を主とする仕事を機械やコンピュータに置き換えるコストは劇的に低下しつつあり,10年もたたないうちに,急速に普及していくと予測しています。汎用化,標準化した知識は,ますます機械やコンピュータに置き換えられるため,事務や肉体労働を主体とする単純作業者の雇用機会は失われることになると思われます。また,医師,弁護士,会計士など高収入で安定している職業であっても,人間理解や職業倫理にもとづく専門的かつ高度な価値判断は,置き換えることができませんが,業務のかなりの部分が同様に置き換えられることになります。
フランスの文明評論家,ジェレミー・リフキン,京都大学経済学教授の宇沢弘文博士は,今後は,製品サービスの供給を中心とする市場経済から,経験価値を創造する共有型経済へと重心が移行するであろうと予測しています。市場資本,国家,消費者が主役の時代から,共有資本,コミュニティ,人間が主役の時代へと変質していくと思われます。増大する知識労働者は,それぞれの個性,才能を生かし,高められる組織文化を有する職場を選択するため,彼らにとって魅力のない組織は衰退していくと思われます。
組織学習理論の開拓者であるハーバード大学のクリス・アージリス教授は,モチベーション,コミュニケーション,ビジョンの3つを組織の3要素と呼び,これら3要素が互いに強化し合いながら組織風土を良好ならしめ,繁栄が導かれると論じています。社会の在り方が経済の在り方を規定する時代に,営利企業が繁栄し続けるためには多様な働き方,多様な就業形態に対する社会的ニーズを先取りし,優れた社風を築き,プロフェッショナルな人材を数多く育成,雇用していかなければならないと思われます。
Webからもお問い合わせ・ご相談を受け付けております。