未来学者として著名なジョエル・パーカーは、パラダイムを「ルールと規範(成文化されている必要はない)であり、システムの境界を明確にし、その境界内でどうすれば成功するかを教えてくれるもの」と定義している。
パラダイムは、自然科学のように厳格な再現性実験によって矛盾なく自然現象を説明できるような理論だけでなく、厳密な証明が困難な社会科学の分野、様々な前提条件を置いて設計される説明モデルや方法論、それらを規定する原則、基準を含み、さらに、組織の慣行、習慣、常識、通念、伝統、しきたり、偏見、社会的強制といった文化的な要素も含まれる。
パーカーは、世界観、文化といったものの見方、考え方、社会、国家、業界、企業といった組織を、こうしたパラダイムのひとまとまりとして「パラダイムの森」と名付けた。真善美に対する人類の欲求は、科学、技術、制度、製品、構築物など、ありとあらゆる物事を生じさせてきた。際限なく高まる人々のこうした欲求を充足させるべく様々なパラダイムが新陳代謝しながら社会そのものが発展してきた。歴史は、パラダイムの転換またはシフト(移行)によって形成されてきたということができる。パーカーは、新しいゲームに移行することを「パラダイムシフト」と名付けた。
図表 パラダイムシフト
上の図表は、パラダイムシフトが起こる様子を示している。あるパラダイムを採用することで、解決される問題の数は増加し、非線形の軌跡、多くはS字型カーブの軌跡をたどる。
★印は新たなパラダイムが発見されたことを示している。新たなパラダイムは、既存のパラダイムでは解決できなかった諸問題のいくつかを見事に解決する(Aの領域)。
しかし、既存のパラダイムに生きる人々には、そのアプローチの方法が異質であり理解できず、かつ実績がわずかなため信用もされず無視される。そうした状態がしばらく続く中、パラダイムの開拓者が現れる。
その後、開拓者は、新たなパラダイムを現実の世界に適用して問題をどんどん解決し始める(Bの領域)。無視できないほど問題解決の実績が蓄積されると、新たなパラダイムの優位性を確信した移住者が加速度的に増加し、解決される問題の数も加速度的または指数関数的に増加する。
人々は問題が解決されことに満足するが、生来、人々は常により高度かつ多様な欲求を持ち始めるため、財・サービスを提供する側に、新たに解決できない問題がますます蓄積される。こうして山積する問題(むしろ難題)を解決しようと挑む新たなパラダイムの発見者が現れる。その後、既存のパラダイムで解決できる問題の数は徐々に減少しはじめ(Cの領域)、既存のパラダイムの軌跡はS字型カーブとなる。パラダイムシフトを早期に認識し、開拓者になれるかどうかで、社会、国家、業界、企業などの組織の盛衰が決まると考えることができよう。
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