株式会社キザワ・アンド・カンパニー

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環境に働きかけるための効果的な方法


PDCAサイクルとOODAループ

我々はある目的に向かって何か事を成し遂げるため、常に環境に働きかける。この場合の環境とは、行為者である自己の内部と自己を取り巻く外部の双方を包摂する。環境そのものにはVUCA、すなわち変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)のそれぞれのレベルに違いがあると同時に、時間の経過とともに変化する。仕事とは目的に向かって環境に働きかける行為である。組織の目的に向かって仕事を進める方法には、PDCAサイクルとOODAループの2つがあり、環境に応じて使い分ける必要がある。

1. PDCAサイクル

PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)の提唱者は、統計的品質管理で有名なエドワード・E・デミング博士である。第二次大戦後、我が国製造業は、このPDCAサイクルを品質管理分野に導入し、高い国際競争力を生み出した。PDCAサイクルはPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する方法論である。

  • Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。
  • Do(実行):計画に沿って業務を行う。
  • Check(評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価する。
  • Act(改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて改善をする。

この4段階を順次行って1周したら、最後のActを次のPDCAサイクルにつなげ、螺旋を描くように1周ごとに各段階のレベルを向上させて、継続的に業務を改善する。

このPDCAサイクルは、戦略計画の策定と実行のレベルにまで応用され、「方針管理」として、現在、多くの日本企業で導入されている。

日本科学技術連盟(JUSE)は、改善のためのPDCAサイクルに加え、Pの代わりに、維持管理のための標準化(Standardization)のSを置いたPDSAサイクルを加え、新たに「管理サイクル」を概念化している(図表参照)。

図表 管理サイクル

2.OODAループ

意思決定の型であるOODAループは、「機動戦」概念の提唱者ジョン・R・ボイド空軍大佐が開発した。敵パイロットよりも速く敵を発見し、行動に移すことができる。つまり観察から行動への速度を決定的に早くする。全視界を見て状況の展開を見る能力がOODAループを構成する基幹プロセスである。

OODAループの基本的な段階は,観察(Observation),情勢判断(Orientation)、意思決定(Decision)、行動(Action)の4つの意思決定プロセスで構成されている。

図表 OODAループ

最初の段階である観察では,五感を駆使して状況の展開を見る。自己の視点のみならず、相手の身になって全体図を直観する。

第二の段階である情勢判断では,新しい情報と自身が蓄積した資質・経験や伝統を分析・綜合して、代替案をつくる。自己の置かれた世界をみるだけでなく、どのような世界を見ることができるかの能力が問われる。ボイドも、状況が刻々と変化する戦況において、敵よりもいかに素早く情勢判断と意思決定を行うかが勝敗を決するとして,情勢判断の段階を「Big O」と呼び、である。この一貫したプロセスは、新たな情報として再び観察され,新しいOODAループが始まっていく。混乱する戦場において,この“see‐decide-do decision”と簡潔に言われるOODAループを,敵より素早く回せるように身体化されるまで叩きこまれる。OODAループの要諦は,先手を取り、敵が対応せざるを得ないようにすることである。

OODAループの中でも一番重要な「Big O」(Orientation)は、遺伝的資質、伝統・文化、分析・綜合、先行経験、新しい情報の相互作用によって形成される世界のイメージ、眺望,印象である。ボイドは,この同義語として、環境とのダイナミックな相互作用におけるメンタル・モデル、スキーマ、ミーム、暗黙知を当てている。

ボイドはマイケル・ポランニーの暗黙知の概念にも影響を受けている。情勢判断のプロセスは分析(アナリシス)と綜合(シンセシス)である。分析は、物事を要素に分解するプロセスであるため、綜合のインプットに留まる。これを踏まえて,情勢判断では、個別具体の状況のなかでの現象を一貫したイメージに統合しなければならない。一般的に真理に近づく方法論は、演繹と帰納の双方が必要であるとされるが、普遍から個別へのトップダウン思考は、演繹・分析であり、個別から普遍へのボトムアップ思考は帰納・綜合である。したがって、創造性は基本的に帰納に関係するが、創造的な帰納にするためには、以前に普遍を構成していた命題を否定する破壊的な演繹が必要だとしている。ボイドは,明確に認識していなかったが、この方法論は演繹、帰納に対してアブダクション(発想)である。

ただし,帰納法は演繹法に比べてリスクをともなう。論理的に与えられた「最大化」基準に基づくすべての代案を比較してベストを選ぶ分析的アプローチに比べると,経験と判断に基づくパターン認識の直観的アプローチは、「満足化」基準に基づく試行錯誤の「よりよい(ベター)」の追求である。

戦争は、サイエンスというよりもアートなのであり,唯一最善の解はない。しかし,実行可能な第一のソリューションを直観的に生み出す意思決定は、多数の代替案を比較しないので、分析的意思決定よりははるかに速い、と主張される。

  • PDCAサイクルとOODAループの違いと適用方法

工業化時代には、PDCAサイクルを戦略計画管理に応用した『方針管理』、クラウゼヴィッツの『戦争論』をビジネスに結び付けた『競争戦略論』が適用されたが、不確実性が高く情勢変化のスピードが速い第四次産業革命の時代ではボイド大佐のOODAループを戦略遂行レベルで適用されるようになっている。PDCAサイクルとOODAループの属性の違いを図表に示した。

図表 PDCAサイクルとOODAループの違い

属性PDCAサイクルOODAループ
提唱者デミング(統計学者)ボイド(軍人)
変動性(V)低い高い
不確実性(U)低い高い
複雑性(C)小さい大きい
曖昧性(A)低い高い
アプローチ方法演繹・分析(全体→個)帰納・綜合(個→全体)
物事の起点計画観察
サイクルの長さ数か月から数年数分から数週
行動に関する判断上位判断現場判断
命令方法指示を与える・指示に従う任務を課す・使命を果たす
メンバーの専門性低い高い
行動パターンアルゴリズム創造的発見
知識タイプの重心形式知暗黙知
データ利用予測データ事実データ
対応の起点事前対応事後対応
機能特性の重心販売・設計・生産マーケティング・研究開発
マネジメントの重心指揮命令相互信頼
組織特性の重心達成型組織進化型組織

PDCAサイクルは指揮命令による管理統制を重視するが、OODAループは相互信頼による自主経営を重視する。したがって、ビジネスに適用する際には、両者の違いを認識したうえで組織特性に合わせて適用すると同時に、現場で必ず直面する両者間の矛盾・対立をうまく処理するための企業文化を育てなければならない。

高度に複雑な水陸両用作戦では、混乱する上陸部隊を一貫性のある攻撃組織にまとめる必要がある。さらに,個人の自発性と絶対命令の順守を同時に両立させなければならない。しかし、戦場では矛盾(コンフリクト)の存在が常態なので、矛盾を受け入れ、相反する考えを同時に機能させるダイナミックなバランス能力が要求される。海兵隊は、日々、次のような矛盾に直面している。

  • 失敗覚悟でやるべきか、成功第一に考えるべきか
  • 権限を与えるべきか、階層を守るべきか
  • 計画を練りあげるべきか、即興で対処すべきか
  • 規律を課すべきか、創造性を触発すべきか
  • 中核業務を担うべきか、多機能業務を担うべきか
  • 慎重に分析すべきか、素早く行動すべきか
  • 隊員同士で競争させるべきか、他の隊員の成功を優先すべきか

海兵隊のリーダーは、このような対立概念のバランス感覚を磨くために,周到な計画や方法を立案すると同時に,勘と経験を駆使し、状況に応じて部下の即興的な自発性を支援する。さらに,海兵隊の教育・訓練システムには,相反する価値観や特性が存在し、それらがバランスをとるようなプロセスが埋め込まれている。海兵隊は全員ライフルマンが共通する分母であり、精神(エトス)なので、「マリーンである」だけで任務を遂行する。この仕組み、ないし文化がコンフリクト解消のスピード化と低コスト化を支援していると言える。

以上

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