株式会社キザワ・アンド・カンパニー

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クローズドイノベーションからオープンイノベーションへ


多くの日本企業は、オープンイノベーションの本質的な意義を理解していないように思われる。

ハーバード大学のヘンリーチェスブロー教授は、著書「オープンイノベーション」の中で、1990年代に米国で実際に起こっていた知的財産に関する価値観、マクロ、ミクロにおける大きな変化について書いている。AT&T、ゼロックス、IBMなどの超優良大企業にとって屋台骨を揺るがす変化であった。

それから20年近くの時間が経過した。やっと、日本でも本格的にオープンイノベーションに取り組もうとする企業が現れてきた。しかし、大半の企業経営者は、オープンイノベーションを知財管理のひとつの手法のように捉えられている傾向が強い。ライセンスインやライセンスアウトによる特許の活用、産学官の共同開発の進め方、技術公募のノウハウといった、どちらかといえば手段について書かれた文献が多い。もちろん、こうした手法はオープンイノベーションにとって重要である。しかし、オープンイノベーションは単なる手法ではなく、ヘンリーチェスブロー教授が主張しているとおり、ビジネスモデルの変革および新規開発、そして自社の存立基盤となるビジネスエコシステムの再構築また企業文化の変革にかかわるきわめて戦略的要素の強いテーマである。

オープンイノベーションの推進力は、コンピュータの計算速度の高速化と爆発的なデータの増加である。これにより、①革新的な科学的発見が加速度的に生じたこと、そして、②知識の専門分化が急速に進み、複雑性が増したこと、③それらに呼応して研究開発の規模の経済性が大きくなったこと、④最先端の技術や知識を持つ研究者やエンジニアの流動性が高まったこと、⑤ベンチャーキャピタルの投資規模が大きくなったことなど様々な要因が重なって起こっている。これら要素が相互作用しながらオープンイノベーションの機会がグローバルベースで増加しつつある。

知識集約産業の一つである医薬品業界、IT業界は過去20年の間に世界的な合従連衡が進んだ。この背景には技術革新が急速に進み、1社単独、日本企業連合では抗しきれない知識獲得の競争があった。大規模の企業再編やM&Aの背景があった。昨今ではAI(人工知能)が破壊的な技術として、GAFA、ソフトバンクを中心に激しい競争が生じている。

今後、同様の変化が自動車、エネルギー、化学、機械などの業界に広がると思われる。こうした変化は、ビジネスエコシステムの大きな変化、すなわちマクロ視点でいえば産業構造の大きな変化につながる。

1990年代以降の日本企業の経営者のパラダイムは陳腐化、日本企業組織を支える終身雇用および年功序列、メンバーシップ型人事評価制度、消極的な人材投資、集団的合意による意思決定システム、男性内部昇進者で固める取締役会などの企業統治システムは急速に破綻しつつある。

我が国の相対的な国力は、先進国の中で下位に落ち込んでいる。戦略立案遂行能力、管理者、現場の人々の専門性のレベル、エンゲージメントの水準は、競争相手となる海外企業に比べて極めて低い。

時価総額の多寡、ビジネスモデルの革新性において、日本の企業は米国、中国、韓国の先進企業の後塵を拝している。これまでの研究開発、イノベーションの分野では最早正面対決が不可能な域に突入している。

英国空軍がドイツ戦を破ったのは、客観的な情報を集めるレーダーと有利に戦う場所を決める司令部の働きである。技術やアイデアが偏在するグローバル市場の中で、諜報活動を強化し、有力な勢力(パートナー)と共同戦線を敷き、劣勢を挽回する時期に来ている。

  • クローズドイノベーションの概念図
  • オープンイノベーションの概念図

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