株式会社キザワ・アンド・カンパニー

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AIの未来図:機械知性が辿る四つのシナリオと分岐点


弊社のブログ読者の皆様、こんにちは。本日は、機械知性(Machine Intelligence)の長期的な発達が、将来私たちの社会をどのように変革しうるかについて、重要な視点を提示した研究論文をご紹介します。

この論文は、高橋 恒一氏(理化学研究所、慶應義塾大学)によって執筆された「将来の機械知性に関するシナリオと分岐点 (Scenarios and Branch Points to Future Machine Intelligence)です。本稿は、人工知能学会誌に2018年11月に掲載されました(受理:2018年9月18日)。高橋氏の目的は、特定の年代を予測することではなく、機械知性の発達が辿る道筋に存在する主要な分岐点と、それらによって想定される帰結を整理することにあります。

高橋氏の論文では、機械知性の能力レベルの上限に基づき、長期的な発展の行き着く先として、主に四つのシナリオが議論されています。

1. シングルトンシナリオ: 再帰的な自己更新により能力向上の速度が上限なく増大し、最初に進化を遂げた知能エージェントが、他のエージェントや人類に対して決定的戦略的優位性(覆すことが困難な覇権)を獲得するという、最も劇的なシナリオです。

2. 多極シナリオ: 国際的な規制や技術経済的要因により、どのエージェントも決定的戦略的優位性を獲得する前に性能向上が停滞するものの、不確実な要因によるシングルトン発生の可能性は否定されないシナリオです。

3. 生態系シナリオ: 知能エージェントの性能向上に限界が存在し、その結果、多数のエージェントが相互依存的な生態系様マルチエージェントネットワークを構成するシナリオです。

4. 上限シナリオ: 人類が工学的に作り出し得る知能エージェントの能力には一定の上限が存在し、将来にわたり自律的に動作する能力は獲得しないというシナリオです。

シナリオを決定づける「制約」

これらのシナリオのどれが具現化するかは、機械知性の能力を制約するいくつかの要因によって決まります。高橋氏は、これらの制約を「内部構造に関わる制約」「計算素子の物理的特性に関わる制約」「マルチエージェント的制約」の三つに分類して議論しています。

特に重要な分岐点となる制約は、以下の通りです。

1. 高度な自律性の実現自己構造改良能力の獲得:上限シナリオを超え、ヒト並み以上の認知能力を持つ機械知性が実現し、さらに自ら性能を向上させられるかどうかが、その他のシナリオへ進むための決定的な鍵となります。

2. 物理的制約(熱力学・光速):利用できるエネルギーに対して実現可能な計算量には熱力学的限界(ランダウアー限界)が存在します。また、光速の上限は、エージェント内部の情報統合速度や外部への応答速度に厳格な制限を課します。

3. マルチエージェント的制約:複数のエージェントが競争する状況では、他のエージェントの行動をより早く予測し、対処できる相対的優位性を確保する必要があります。しかし、光速や計算複雑性(多くの問題は計算能力の増加に対して対数的な効用しか得られない)のため、計算資源を増やしたからといって際限なく優位性を追求できるわけではありません。

未来への洞察

高橋氏の分析は、知能爆発(Intelligence Explosion)の議論が、単にソフトウェアの進化だけでなく、物理法則が設定する根本的な限界や、競争環境における応答速度の要求といった、逃れがたい制約に強く依存していることを示しています。

私たちがどの未来のシナリオに進むかは、これらのアーキテクチャや物理レベルの制約を技術が克服できるか、あるいはそれらの制約があるためにシングルトン(単一の覇者)の出現が防がれ、生態系として共存する道を選ぶかによって決定されるでしょう。

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