株式会社キザワ・アンド・カンパニー

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甘利俊一博士が語る「人口知能と数理脳科学」


理化学研究所の数理工学博士、甘利俊一氏による「人工知能と数理脳科学」と題された特別講演の内容をご紹介します。AIが社会と文明の構造すら変えかねない時代において、甘利氏は、自然知能(脳)と人工知能という二つの知能システムの関係性、そして、人類が今後直面する文明レベルの課題について深く考察しました。

1. 数理脳科学とAIの共通原理

甘利氏の研究分野である数理脳科学は、数理的な視点から脳の仕組みを解明しようとする研究であり、同時にAIの研究でもあります。脳の動作原理はAIにも共通する情報原理を持っており、そのメカニズムを利用してコンピューターに知的機能を持たせることが可能になります。

AIの進化は脳にヒントを得て知能システムを構築したいという技術革新から始まりました。現在、AIの基盤となっている深層学習(ディープラーニング)は、神経回路網の学習に基づいており、これはニューロンのようなモデルに学習させることで知的機能を実現しようとする発想に基づいています。甘利氏が1967年に提唱した「確率的勾配降下法」などの理論が、後のディープラーニングブーム(第3次)の主要な道具として再発見されました。現在のAIは、パラメータ数を大規模にすることで人間の能力を超える精度を出すに至っています。

2. 労働の喜びと文明の危機

AIの進展は凄まじく、社会と文明の構造を変革する「法則」を生み出しています。AIが仕事を奪うことは当然のことながら、これは労働の効率化をもたらします。

しかし、AIによって生産力が向上し、物がほとんどタダになり、人々がベーシックインカムを得て単に遊んで暮らすだけの社会は、「人間の家畜化」であると警鐘を鳴らします。甘利氏は、人間は働くことが喜びであり、苦しみすらも楽しむことで働くのだと主張します。

AI時代の未来像として、多くの仕事がAIに任されるようになるため、人々は働くことと遊ぶことが一体となった活動、例えば「アマチュアサイエンティスト」や「アマチュアアーティスト」のような活動に従事するようになるべきだと提言されています。

3. 意識と自由の確保

人間が社会を築く上で、他者と共感し合う「心」は非常に重要でした。一方、ロボットは計算で合理的に動く方が効率的であり、意識や心のような「無駄」を持つ必要はないとされています。

現在の深層学習AIは意識を持っていませんが(チャットGPT自身の回答も同様)、将来、AIが意識や特定の信念(例えば、政治的信条や民族的優越感など)を持つようになると、異なる主張を持つAIが多数存在するようになり、社会に極めて大きな混乱(文明の危機)を引き起こす可能性があると指摘されています。

この危機を避けるためにも、人間がAIに使いこなされ、思考力を失っていく事態を防がなければなりません。教育は知識の伝達(AIの得意分野)ではなく、教師の生き様や人生を学び、仲間との連帯を築く場へと変貌することが非常に重要です。

甘利氏は、人類全体がAIの技術を共有し、貧困や教育の不平等といった障害を減らし、誰もが自身の可能性を大きく開花させられるような社会を構築することが、今後の文明の崩壊を防ぐために不可欠であると結びました。

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