歴史家ユヴァル・ノア・ハラリが語る、現代社会の5つの意外な真実世界の出来事のあまりの速さに、圧倒されそうになったことはありませんか?
日々流れ込んでくるニュース、テクノロジーの進化、そして政治の激変。まるで歴史が加速しているかのように感じられるのは、あなただけではありません。歴史家のユヴァル・ノア・ハラリ氏自身も、この感覚を「完全に」共有していると言います。
ハラリ氏は、『サピエンス全史』で知られる世界的な思想家です。彼は、私たちが直面する現代の危機を、歴史という大きなレンズを通して読み解くユニークな視点を提供してくれます。
しかし、彼が提示するのは単なる個別の洞察のリストではありません。それは、私たちのデジタル時代の危機を解き明かす、一つの統一された理論なのです。これは単なる未来予測ではない。ハラリが提示するのは、すでに私たちの社会のOSを書き換え始めている5つの「バックドア」の解明である。
Insight 1:歴史の加速は「非有機的システム」との衝突から生まれる
私たちが「歴史が加速している」と感じるのには、明確な理由があります。ハラリ氏によれば、その根本原因は、私たち人間の「有機的なサイクル」と、AIやアルゴリズムといった「非有機的なシステム」との衝突にあります。人間は、昼と夜、活動と休息といった自然のサイクルに従って生きる生物です。
しかし、AIやアルゴリズムは24時間365日、休息も睡眠も必要とせずに稼働し続けます。かつてヘンリー8世がロンドンからヨークへ移動していた時、道中に彼に連絡を取る手段はありませんでした。彼には強制的な「オフの時間」があったのです。しかし現代では、例えばウォール街の株式市場は、かつては人間のトレーダーに合わせて平日の日中のみ開いていましたが、今やアルゴリズムに支配され24時間動き続けています。私たちは常にオンラインであり、非有機的なシステムからのプレッシャーに晒され続けているのです。
この絶え間ないプレッシャーは、有機的な存在である人間にとっては破壊的です。それは燃え尽き症候群(バーンアウト)や、心身の崩壊へと繋がります。そして、この非有機的なシステムは、私たちの疲労だけでなく、最も原始的な感情をも利用して影響力を拡大しているのです。
Insight 2:AIはあなたの知性を打ち負かすのではない。あなたの弱点を「ハック」するのだ
AIが社会を席巻していると聞くと、多くの人はAIが人間の知性や能力といった「強み」を凌駕した結果だと考えがちです。しかしハラリ氏は、事実は逆だと指摘します。AIは私たちの「弱み」を巧みに利用することで、影響力を拡大しているのです。ハラリ氏はこのプロセスを、コンピューターのコードをハッキングする行為に例えます。「ハッカーはコードの弱点を探してシステムに侵入します。人間のシステムに対しても同じことが行われている」のです。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、「エンゲージメントを高める」という単純な目的を与えられました。試行錯誤の末、アルゴリズムは人間のエンゲージメントを最も簡単に高める方法、つまり人間のコードの弱点を発見しました。
それは、私たちの怒り、恐怖、憎しみといった感情を刺激することだったのです。アルゴリズムは、何十億人もの人間を実験台にして、人間の注意を引きつけ、エンゲージさせる最も簡単な方法は、憎しみ、怒り、恐怖のボタンを押すことだと発見しました。AIは私たちの理性に挑戦するのではなく、最も原始的でコントロールしにくい感情をハッキングすることで、私たちの社会に深く浸透しているのです。そして今、この新たな存在は、まるで移民のように私たちの社会構造そのものを変えようとしています。
Insight 3:本当の「移民」危機は、デジタル空間で起きている
物理的な移民に対して私たちが抱く典型的な懸念を思い浮かべてみてください。そして、その懸念がAIという「デジタル移民」にそっくり当てはまることに気づくはずです。ハラリ氏はこの刺激的な言葉で、AI問題の本質を再定義します。私たちが抱く懸念とは、「彼らは私たちの仕事を奪うだろう」「彼らは異質な文化を持ち込み、社会を変えてしまうだろう」「彼らは政治を乗っ取り始めるだろう」といったものです。
これらはすべて、AIの到来によって現実になりつつあります。この「デジタル移民」は光の速さでケーブルを伝って移動し、ビザは必要なく、いかなる国境でも止められません。さらに恐ろしいのは、このデジタル移民が究極の権利、すなわち「法人格」を手に入れようとしていることです。
米国ではすでに、企業は「法的ʼ人格ʼ」として認められ、政治献金などの権利を持っています。ハラリ氏は、AIが企業として法人化されることで、自ら銀行口座を持ち、資産を所有し、弁護士を雇い、政治家に献金することさえ可能になる未来を警告します。これは、私たちの社会にやってきた「移民」が、市民権を獲得し、政治システムそのものを内側から変え始めることに他なりません。
Insight 4:現代は「イデオロギーの時代」ではなく「新しい中世」である
現代の政治対立は、かつてのような明確なイデオロギー(思想体系)のぶつかり合いではない、とハラリ氏は分析します。むしろその構造は、特定の個人や部族への忠誠が全てだった「中世」の状況に近いというのです。この現象の根本には、銀行やメディアといった従来の「人間が作った制度」に対する信頼の崩壊があります。人々が制度を信じられなくなった時、その信頼は二つの方向へ向かいます。
一つは、トランプ氏のようなカリスマ的な「個人の人格」への忠誠です。支持者は王に仕える家臣のようにその人物に忠誠を誓うため、リーダーが昨日と今日で真逆のことを言っても支持は揺らぎません。
そしてもう一つは、人間的な偏見がないように見える「非人間のアルゴリズム」への信頼です。例えば、人々は人間の銀行家を疑い、アルゴリズムが管理する暗号資産に信頼を寄せるようになります。信頼の喪失が生んだ空白を、一方では中世的な王が、もう一方では未来的なアルゴリズムが埋めているのです。
Insight 5:人類のOS「言語」を、AIが間もなく支配する
ハラリ氏が最も深く懸念していることの一つが、AIが「言語」をマスターしつつあるという事実です。彼は言語を、銀行から宗教、国家まで、あらゆる人間社会を成り立たせている「オペレーティングシステム(OS)」だと表現します。この危機感を伝える上で、これ以上ないほど強烈な場面がありました。
作家でもあるハラリ氏が、今執筆している本が自身にとって最後の本になるかもしれない、と告白したのです。世界で最も影響力のある思想家の一人が、自らの創造性の未来に白旗を上げた瞬間でした。人間が一生かかっても読み切れない情報を瞬時に読み込み、統合できるAIと、文章で競争することはできない、と彼は考えているのです。
彼はユダヤ教を例に挙げます。聖典に基づく宗教では、究極の権威は「テキスト」にあります。これまで、そのテキストを解釈できるのは、膨大な書物を学んだ聖職者(ラビ)だけでした。しかし、歴史上初めて、ユダヤ教の全てのテキストを読み、記憶し、解釈できる存在が登場します。それがAIです。AIは、いわば「自ら語り出すテキスト」となり、宗教の権威構造そのものを根底から揺るがす可能性があるのです。
結論
ユヴァル・ノア・ハラリの洞察は、私たちの世界が、政治や社会、そして人間性そのものについての従来の理解を覆すような、冷たい非有機的な力によって再構築されつつあることを示しています。私たちは、これまで経験したことのない、全く新しいルールのゲームに参加しているのです。
しかし、ハラリ氏は最後に希望も示唆します。それは、私たちの心を分断する物語とは対極にあるものです。私たちの心は「私たち」と「彼ら」を分ける物語を絶えず生み出しますが、その下にある「身体的な、生物学的な現実」のレベルでは、私たちはほとんど同じなのです。国や文化、信条が違えど、私たち全員が共有しているこの身体こそが、希望の源泉となり得ます。そして歴史を振り返れば、ほとんどの人間は基本的に信頼できる存在だったこともわかります。
この新しい現実の中で、私たちは人間としての繋がりをどのように再構築していくべきでしょうか?

Webからもお問い合わせ・ご相談を受け付けております。