株式会社キザワ・アンド・カンパニー

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「グローバル化」は終わったのか?経済の新しい潮流に関する5つの驚くべき真実


導入

最近、世界経済が根本的に変わり、より分断されていると感じませんか?これは単なる気のせいではありません。私たちは今、経済史における「巨大なUターン」とも言うべき地政学的な地殻変動の真っ只中にいます。

数十年にわたり、国境を越えた貿易と資本移動の自由化を推し進めてきた「ワシントン・コンセンサス」という経済思想が、世界の常識でした。この「ハイパー・グローバリゼーション」の時代が終わりを告げ、国家安全保障と国内産業を優先する「ホームランド・エコノミクス」という全く新しいモデルへと、世界は大きく舵を切っているのです。

この記事では、この歴史的な転換の裏に隠された、5つの驚くべき、あるいは直感に反する真実を、最新の分析に基づいて解き明かしていきます。

1. グローバル化の黄金時代は、私たちが思うほど「グローバル」ではなかった

1990年代、資本が国境を自由に飛び交う「ハイパー・グローバリゼーション」の最盛期には、世界は単一の巨大な資本市場になったと考えられていました。しかし、これは意図的な政策選択の結果でした。第二次大戦後の「ブレトンウッズ体制」では、資本移動はむしろ厳しく管理されていたのです。そして驚くべきことに、規制が撤廃された後でさえ、データは真に統一されたグローバル資本市場が実は存在しなかったことを示しています。

その証拠は2つあります。第一に、豊かな国々の経常収支の不均衡は、GDPの平均2〜3%程度と非常に小さいものでした。もし本当にグローバルな市場が存在すれば、貯蓄の多い豊かな国から投資を必要とする貧しい国へ、もっと大規模な資本の流れがあったはずです。しかし実際には、ほとんどの貯蓄と投資は国内に留まっていました。

第二に、実質金利が国によって大きく異なっていました。単一のグローバル市場であれば、資本はリターンの高い方へ流れ、最終的に金利は世界中でほぼ同じ水準に収斂するはずですが、そうはなりませんでした。さらに、この不完全で不安定な資本移動は、1997年のアジア通貨危機のように、途上国に壊滅的な金融危機をもたらすこともありました。

そして、この不完全なグローバル市場の恩恵は、そもそも豊かなくにの労働者には届いていませんでした。

2. グローバル化の果実は、豊かなくにの労働者には平等に分配されなかった

グローバル化は世界全体の富を増大させましたが、その恩恵は豊かなくにの労働者に平等に行き渡ったわけではありませんでした。むしろ、その格差は深刻な政治問題の火種となりました。

2006年までに、豊かな国々で経済全体に占める労働者の取り分は、過去30年間で最低の水準にまで落ち込みました。特に米国では、2001年の景気後退後、労働者の生産性は15%も上昇したにもかかわらず、典型的な労働者の実質賃金は逆に4%も減少するという事態が発生したのです。

この驚くべき格差の背景には、世界的な労働供給の爆発的な増加があります。中国、インド、そして旧ソビエト圏が世界市場に参入したことで、利用可能な労働力は15億人から30億人へと、事実上倍増しました。この巨大な労働力の流入は、資本の増加を伴わなかったため、豊かな国々の労働者の交渉力を弱め、賃金に強烈な下方圧力をかけたのです。

3. グローバル化の失速は、近年の貿易戦争よりずっと前から始まっていた

グローバル化の勢いが衰え始めたのは、近年の米中貿易戦争がきっかけだと思われがちですが、実際にはそのずっと前、2010年頃から「スローバリゼーション(slowbalization)」と呼ばれる減速が始まっていました。

この失速には、主に3つの実用的な理由がありました。

  1. 物理的な輸送コストの低下が限界に達したこと。 コンテナ船の導入などによる物流革命の大きな恩恵は、すでに出尽くしていました。
  2. 複雑な多国籍サプライチェーンの管理が困難になったこと。 世界中に広がるサプライチェーンは、管理コストが非常に高くなり、わずかなコスト削減のメリットを上回るようになっていました。
  3. 経済活動の中心がサービス業へ移行したこと。 医療やソフトウェアといったサービスは、テレビのような物理的な製品と比べて本質的に国境を越えた取引が困難です。

このため、近年の保護主義的な動きは、かつてないほど経済を混乱させます。あるアナリストが指摘するように、今日の深く統合されたサプライチェーンに関税をかけることは、次のような行為に等しいからです。

まるで工場の真ん中に壁を建てるようなものだ。

この「スローバリゼーション」という静かな変化が土台となり、近年の地政学的な衝撃が、経済を全く新しい方向へと押し出したのです。

4. 新しい「ホームランド・エコノミクス」は、地政学的リスクを効率性より優先する

そして今、私たちは「ホームランド・エコノミクス」という、全く新しい時代に突入しています。これは、経済政策の最優先目標が、純粋な経済効率性から、地政学的リスクを低減することへと根本的にシフトしたことを意味します。この転換を加速させたのは、近年の4つの大きな衝撃でした。(1) 2020年のコロナ禍が露呈させたサプライチェーンの脆弱性、(2) 激化する米中対立、(3) ロシアによるエネルギーの武器化、そして(4) 生成AIがもたらす未来への不確実性です。

政府はこの新しい目標を達成するために、主に2つの強力なツールを用いています。

  • 補助金と産業政策: 2021年から2022年にかけて、世界で1,500件以上の新たな産業政策が導入されるなど、政府による市場介入が爆発的に増加しています。米国のCHIPS法やインフレ削減法は、半導体やグリーン技術といった戦略的産業を国内(あるいは友好国)に回帰させるための代表例です。
  • 貿易制限と制裁: 経済制裁や外国からの投資審査の厳格化といった懲罰的な措置の利用は、1990年代の4倍以上に増えています。

この新しいアプローチにより、グローバル化を支えてきた世界貿易機関(WTO)は事実上その機能を停止させられ、代わりに地政学的なつながりを重視する地域的な貿易ブロックが台頭しています。

5. この新しい保護主義には、危険な「政治的ワナ」が潜んでいる

ホームランド・エコノミクスには、大きな経済的コストが伴う可能性があります。ある試算によれば、世界経済が完全に分断された場合、世界の総生産は2%から最大で5%以上も減少する可能性があるとされています。5%の減少とは、「世界全体が経済的なブレグジット(英国のEU離脱)を選択するようなものだ」と言えば、そのインパクトの大きさがわかるでしょう。

にもかかわらず、なぜ政治家はこの道を突き進むのでしょうか。そこには巧妙な「政治的ワナ」が存在します。

  • 利益は目に見えやすい: 新しい工場が建設されたり、特定の雇用が守られたりといった政策の「利益」は、具体的で目に見えやすく、政治的にアピールしやすいものです。
  • コストは目に見えにくい: 一方で、経済成長がわずかに鈍化したり、消費者が支払う価格が少し上昇したりといった「コスト」は、社会全体に薄く広く分散するため、特定の政策のせいだと非難されにくいのです。

このワナがあるため、政治家は、たとえ歴史が内向きになることの経済的損失を証明していても、保護主義的な政策を追求する強いインセンティブを持ってしまいます。

結論

世界は今、効率性を追求した「ハイパー・グローバリゼーション」の時代から、安全保障を最優先する「ホームランド・エコノミクス」の時代へと、大きな転換点を迎えています。この新しいモデルは、世界をより安全で、より公平な場所にするという約束を掲げています。

しかし、その裏には高いコストと大きなリスクが潜んでいます。もし、このコストのかかる新しいモデルが約束通りの成果を上げられなかったとしたら、政府はどうするでしょうか。

その時、政府は成果を出すため、さらに強力な国家管理、さらに積極的な産業政策へと、より自由の少ない道へと突き進むことを余儀なくされるのではないか――。それこそが、私たちが今、真剣に考えなければならない、未来への懸念なのです。

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