ドラッカーは,「現代の経営」の中で,「人的資源,すなわち人間こそ,企業に託されたもののうち,最も生産的でありながら,最も変化しやすい資源である。そして最も大きな潜在的な力を持つ資源である」と述べている。
1980年代,自動車や家電,精密機器の分野で,米国大企業は日本との競争で大敗した。生き残りを賭けて大胆なダウンサイジングと同時に,企業文化のレベルで大胆な改革を行った。その取り組みは,大きなパラダイムシフトをともなうものであった。
1980年代末までの経営者教育は,下表に示すとおり,マネージャーを育成するための教育が中心であり,専門性,機能性を高めることを重点にカリキュラムを組んでいたが、1990年代以降、変革に必要なのは,個々人のリーダーシップ能力開発であり,多くのリーダーの存在である、と考え経営者教育の在り方を抜本的に変えることになる。
当時のGEなど米国大企業は、経営トップが指し示す針路,戦略を全社的かつ末端まで浸透させ早期に実現する必要に迫られていた。そのため,これまでごく一部の経営幹部を著名な大学のオープン講座へ送りマネジメント能力を身につけさせていたが,受講対象者を中堅幹部まで広げると同時に,大学と提携して企業内講座を開設し実践的な内容を通じて,リーダーシップ能力を開発する方向へ舵を切った。
現在では,企業内大学をつくり教育にかける時間は80年代末の1.5倍から2倍,受講者数は2倍から5倍へと増やしている。我が国においては,すでにグローバル展開している大企業である総合商社,重電,総合化学メーカなどが2000年代から徐々に,リーダーシップ教育に力を入れるようになり,同様な研修制度を取り入れつつあるが,そうした一部の大企業を除けば,ほとんどの企業が周回遅れであり,経営トップの意識もパラダイムは,ほとんで変わっていないのが現状ではないだろうか。
中華経済圏に位置する中国,韓国,台湾,シンガポールの大企業のほうが我が国よりも先行しているのが残念ながら現状である。特にデジタル革命の先駆者であった米国は,製造機能に限らず,サービス機能まで含む企業活動のあらゆる分野で情報通信技術を活用し労働生産性を改善させてきた。また,情報通信技術を新たなビジネスモデルの開発に生かし,競争力を飛躍的に強化してきた。こうした変革を断行するにあたって,最も重視したのが,リーダーシップ能力の開発である。
経営者教育の変化(米国のケース)
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