株式会社キザワ・アンド・カンパニー

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イノベーションの二次市場


「オープンイノベーション」とともに「イノベーションの二次市場」という概念を最初に打ち出したのは、チェスブロウ教授である。主に、テクノロジーの利用・共用・提供(ライセンシング)または売買のように、その対象を特許化されるか、または文書化(形式化)が可能な知的財産権の取引市場を想定している。筆者は、イノベーションの二次市場を、「ビジネスモデルのオープン化に必要なアイデアとテクノロジーの取引を仲介する場である」と定義することによって、ビジネスをオープン化するための戦略的な選択肢を広げることができると考えている。

そもそもプロセスはアイデアとテクノロジーの束からなる。アイデアとテクノロジーは、特許、意匠、著作権、商標など知的財産権として、文書化し登録し、公開を前提に法的に保護する場合もあるが、営業秘密のように敢えて秘匿する場合もある。比較的、製品に使用されるテクノロジーは、その革新的な機能を図解や説明によって構造と原理を説明しやすい。しかし、製造プロセスに使用されるテクノロジーの移転には、ノウハウや経験など暗黙知化されている部分が大きく、製造設備に体化されている部分も多いため、かなりの時間とコストがかかる。

ビジネスモデルのオープン化には、形式知化または標準化できるアイデアやテクノロジーだけでなく、ノウハウや経験など暗黙知化または標準化が難しいアイデアやテクノロジーも視野に入れるべきであるし、実際にそのように行われている。スタートアップ企業へ大企業が出資するのは、単純に個別のテクノロジーにアクセスする機会を得ることではなく、そのテクノロジーを顧客価値へと結びつけ商業化しているか、その可能性が高いビジネスモデルに価値を置いているからである。

市場というと、株式市場や不動産市場のように情報の非対称性が小さい市場を想像してしまうが、イノベーションの二次市場は、情報の非対称性が極めて大きいため、通常、守秘義務契約を結んだうえで、直接当事者間で、相対交渉で行われる。二次市場の取引形態と仲介者は、つぎの通りである。

二次市場の取引形態:

  • 破綻企業のパテントオークション
  • 共同開発、技術の売買(アウト・ライセンシングまたはイン・ライセンシング)
  • ベンチャー出資、スピンオフ
  • 技術・資本提携、M&A(敵対的TOBも含む)

二次市場の仲介者(エージェント):

  • パテント仲介事業を行う特許事務所
  • 産学連携を担当する大学教授(ソート・リーダー)
  • 公的な産学連携機関
  • 経営コンサルタント
  • 商社(日本独特の事業形態でマーチャントバンク)
  • 投資銀行
  • ベンチャーキャピタル
  • プライベートエクィティ
  • ビジネスブローカー
  • エンジェル投資家

このようにイノーベーションの二次市場を拡大解釈することによって、知的財産権の利活用だけでなく、工場のライン(継続的改善によるノウハウが体化されている)やブランド(顧客が心に抱く企業や製品サービスに対するイメージ)にもビジネスのオープン化を進める機会を認識できるようになるのではないかと考えている。テクノロジーとマーケットには、不確実性とライフサイクル(栄華盛衰)が常に同伴する。両者をマッチングさせる仲介者の役割はますます大きくなるであろう。

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