株式会社キザワ・アンド・カンパニー

株式会社キザワアンドカンパニー

生成AIは多様性を奪うのか、それとも育てるのか?


生成AIは、驚くべきスピードで私たちの生活やビジネスに浸透しています。人類が積み上げてきた知識を取り込み、あらゆる質問に「もっともらしい答え」を返すことができる。それは便利で効率的ですが、同時に大きなリスクもはらんでいます。

たとえば、マーケティングのキャッチコピーを考えるとしましょう。AIを使えば一瞬で「無難なフレーズ」を大量に出してくれます。しかし、誰もが同じツールを使い、似たような表現を選ぶと、広告はどれも似たり寄ったりになります。企業戦略も同様です。AIに頼り切ることで、かえって差別化が難しくなり、競争は激しくなる一方かもしれません。

では、AIは本当に多様性を奪う存在なのでしょうか。実はそう単純ではありません。AIの出力には文化的な偏りがあり、質問の仕方次第で答えが大きく変わります。さらに、AIは既存の知を組み合わせるのは得意でも、現場での失敗や偶然から生まれる「想定外の発想」までは生み出せません。むしろAIが均質化を促すほど、逆説的に人間ならではの経験や文化に根ざした視点が光を放つのです。

たとえば、新製品開発の現場では「ユーザーの不満」や「小さな違和感」がブレークスルーのきっかけになります。AIが提示する「常識的な解決策」は役立つ一方で、それを疑い、実際に試し、失敗から学ぶことでしか得られない知見があります。トヨタの改善活動やシリコンバレーのスタートアップ文化が示すように、「小さな実験と失敗を繰り返すこと」が大きな革新につながっていくのです。

では、私たちはAIとどう付き合うべきでしょうか。大切なのは「AIの答えを出発点にする」ことです。AIが示す常識をそのまま受け入れるのではなく、「本当にそうなのか?」「別の可能性はないか?」と問い直し、実験で確かめる。そこにこそ、未来の競争力の源泉があります。

生成AIは確かに同質化の圧力を強めるかもしれません。しかし、私たちが批判的に活用し、失敗を受け入れる文化を育てるなら、AIはむしろ多様性を強化する触媒になり得ます。

AIの答えを鵜呑みにするか、それとも問い直しの材料にするか。そこに、人間と企業の未来がかかっているのではないでしょうか。

対話のすすめ


研究レポートを解説した6分弱のポッドキャストをご試聴ください。

風土と潜在意識:私たちを形作る見えない力

哲学者・和辻哲郎は、人々の心のあり方や思考様式は、その土地の自然環境や歴史的背景、すなわち「風土」によって深く形づくられると説きました。この精神的な特徴は、たとえ経済システムや社会構造が変化しても、簡単には変わりません。なぜなら、それは長い時間をかけて人々の“潜在意識”に根付いているからです。

潜在意識とは、私たちが普段自覚していないものの、考え方や行動に大きな影響を与える心の深層です。例えば、新しい働き方が「正しい」と頭では理解していても、「なんとなく違和感がある」と感じることがあります。これは、風土によって培われた古い価値観と、新しい論理との間の“矛盾”です。この矛盾は、しばしば個人や組織に心理的な葛藤やエネルギーの浪費を引き起こします。

矛盾の克服:弁証法と対話の力

人間の脳は、この矛盾を放置せず、無意識のうちに解決を試みます。しかし、論理だけでは解決できない心の葛藤を乗り越えるためには、まず「自分の中に矛盾がある」と自覚することが不可欠です。

この矛盾を建設的に乗り越える手法の一つが「弁証法」です。弁証法とは、ある考え方(正)とそれに矛盾する考え方(反)をぶつけ合うことで、両者を超えたより高次元の新しい考え方(合)を生み出す思考プロセスです。企業組織においては、個人が抱える矛盾を「集団全体」で共有し、議論を通じて新しい前提や行動様式を創造していくことが求められます。例えば、終身雇用が当たり前だった時代に育ったベテラン社員と、流動的なキャリアを志向する若手社員の間にある「仕事観の矛盾」を考えてみましょう。この矛盾を単なる世代間の対立として片付けるのではなく、それぞれの価値観を深く理解する対話を行うことで、「個々の専門性を活かしつつ、組織全体の目標に貢献する」という新しい協働の形が生まれるかもしれません。

組織を動かす「意味の共有」

対話の目的は、単に意見を調整することではありません。それは、物理学者であり哲学者でもあるデビッド・ボームが提唱した「意味の共有」にあります。組織は、仕事の分担(分業)と協力(協働)によって成り立っています。分業には上下関係や役割分担が必要ですが、全体が一つの目的に向かって動くためには、共通の「意味」が必要です。

もし組織内で「何のために働くのか」「私たちの仕事の本当の価値は何か」といった意味が共有されなければ、組織は個々の部品がバラバラになった時計のように機能不全に陥ります。しかし、人間社会は機械とは異なります。生命体のように、相互に影響を与え合いながら自ら秩序を作り出す「自己組織化」の能力を持っています。だからこそ、たとえ一時的にバラバラになっても、対話を通じてもう一度つながり直し、新たな秩序を生み出すことができるのです。

対話の先にあるもの:日本の哲学と「つながり」

日本の哲学は、この「つながり」の思想を深く探求してきました。西田幾多郎は、個人の意識の奥底には「絶対無」という、すべてを包み込む根源的な場があると説きました。これは、個人の立場を超えた「無限の全体」とのつながりを示唆しています。この考え方は、私たちのアイデンティティが単独で存在するのではなく、他者や世界との関係性の中で成り立っているという感覚と共鳴します。対話を通じて自己の潜在意識に気づき、他者との違いを乗り越えることは、この根源的な「つながり」を再発見するプロセスだと言えるでしょう。

聖徳太子の「和をもって貴しとなす」、空海の「色即是空、空即是色」、仏陀の「無我」といった思想に共通するのは、目に見える形や個人の自我にとらわれず、すべてのものがつながり合い、変化していく「実在」に目を向けることの重要性です。対話によって「意味」を共有することは、この見えない実在、すなわち私たちにとって本当に大切なこと、守りたいことを共に探求する行為に他なりません。これは組織内に限らず、顧客、国家、そして人間と自然の関係においても、調和と創造性を生み出す鍵となります。

社会に大きなインパクトを持つ変化と私たちの責務


社会、経済の長期的な変化を予測することは大変、むずかしいことですが、今後30年の間に私たちが経験するだろうさまざまな変化のうち、そのインパクトが大きく確実に起こると思われるトレンドは、つぎの5つになります。その中で、私たち一人ひとりに課される責務を考えました。

① 少子化・高齢化にともなう生産者年齢人口の減少

健康寿命が伸び、若年労働者が少なくなり、年金など将来負担が増えます。年齢差、性差に制約を受けない職場環境が求められています。 私たちは生きがいのある職場づくりに貢献しなければなりません。

② AI(人工知能)、ヒト型ロボットの急速な普及

定型的な仕事の多くが自動化され、人間の感性を必要とする創造的な仕事が増えます。自分の仕事を分析し、よりよく、よりはやく、よりやすく物事を処理できるように、新たなデジタル技術を学習し、仕事の中に取り込んでいことが求められています。 私たちは、想像力、創造力を仕事に活かさなければなりません。

③ 個性、主体性を自由に表現できる社会の実現

組織の小さな歯車ではなく、仕事をつうじて自己を表現できるようになります。組織全体の目的と自分の個性を知り、その中での自分の役割を再定義することが求められています。 私たちは、偽りの自分ではなく本当の自分を生きなければなりません。

④ グローバル化による異文化交流機会の増大

高度な技術をもった外国人材の数が増えます。文化の異なる人びとの価値観を受け入れ、互いに個性を自由に発揮できる職場が求められています。 世界市民としての日本人でありつづけなければなりません。

⑤ 気候変動、世界的な感染症など地球環境問題の深刻化

化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが進みます。私たちの製造プロセスが人類や地球環境におよぼす影響を想像しながら、再生、再利用、共有できる機会を探求し、環境負荷を大幅に低減し、自然資源を涵養することが求められています。 私たちは、生物圏の支配者ではなく、他の生物と共生する人類として自然資源を再生しなければなりません。

「エントロピーの法則」の視点


エネルギー政策の長期指針となる「エネルギー基本計画」の議論がこれから本格化しています。北海道が脱炭素時代のエネルギー拠点に脱皮しつつあることを、今朝の日経新聞(2024年5月7日「脱炭素が問う北海道の真価」Deep Insight)で紹介されました。

工業地帯の苫小牧にグリーン水素製造施設が2030年、発電所、製油所から出る二酸化炭素回収貯蔵施設、水素と窒素を合成してつくる燃料アンモニアの輸入基地(中東から)などが続々と建設されています。風力発電の適地の50%を持つ北海道では、今後、通常の演算処理に比べ、エネルギー消費が10倍を超えるAI向け電力需要を賄うためのデータセンターの建設の高い伸びが見込まれています。北海道から本州に向けて高圧直流の海底送電を結ぶ計画が動いています。こうした莫大な投資をせずとも、光通信ケーブルを増強するほうが、安くつくのではという興味深い議論も出ています。いずれにせよ、カーボンニュートラルを実現しつつ、地球規模で高まり続ける電力需要にどこまで対応するのかというのは大きな問題です。この対立項をどのように解消するかのヒントはどうもエントロピーの法則にありそうです。

ジェレミー・リフキン(ドイツ、EU、中国の政策アドバイザー)は、驚くことに、1980年代に現在の地球環境問題と生物多様性の問題を論じていました。エネルギー源は、木材→石炭(70年)→石油・天然ガス(70年)→水素(今後70年)と変わるたびに、社会経済システムが大きく変化してきました。こうした北海道で見られる動きが、今後、どのような経済社会システムの鋳型を作り出すのか、大変興味が湧くところです。

リフキンによると、熱力学第二法則(利用可能なエネルギーは利用されると利用不可能なエネルギー「エントロピー」に不可逆的代わるという物理法則)に従えば、収支バランスを超えた分が、借金のように蓄積し、人類を含む生物圏をいずれ危機に陥れるだろうと警鐘を鳴らしていました。近代の思想を支えたニュートン力学、モネ・デカルトの科学的方法論、ジョンロックの自由主義論、アダムスミスの国富論に共通するのは、「自然資本は神から人類に対して与えられたものであり、それは無限であり、人類がそこに秩序を与え、徹底的に効率よく活用する力と自由がある」ということです。日本も進歩を夢見て、明治時代に和魂洋才の名のもとで、こうした思想を取り入れました。そして現在を生きる私たちの思考(哲学、学問)に大きな影響を与えて、水槽にいる金魚にとっての水のように、その存在すら疑いません。今、エネルギー源が水素に代わろうとしているので、大きな社会経済システムの変化が起こると思われます。それは自然資本のレジリエンス(治癒・回復・共生力)を生みだす政策・規制、テクノロジー、ビジネスモデル、人びとの価値観(生きる意味)の変革によって作り出されると思います。

加速するビジネスモデルのオープン化


大多数のトップエグゼクティブは、自社の経営資源を活かしてイノベーションを実現することは経営戦略上の重要課題であると認識している。しかしながら、それには大変な困難が付きまとう。それは、イノベーションを実現するための組織能力が不十分であるからである。求められる能力とは、つぎ6つである。

  • パラダイムシフト
  • 両利きスキル
  • イノベーションのスキル
  • 異文化理解力
  • テクノロジー・アイデアの探索力
  • ビジネス人脈の探索力

オープンイノベーションの車輪

図は、6つの組織能力の関係を車輪で示している。まず、トップエグゼクティブはイノベーションを起こすために必要な新たなパラダイムを受け入れる必要がある。パラダイムとは、価値観、信条、方針、組織文化、伝統、制度、規則、行動パターン、習慣を含み、無意識にあるものも含めた広い概念である。指数関数的に加速する技術革新、製品ライフサイクルの短縮化により、アイデアやテクノロジーの創造、選択、開発、商業化といったイノベーションのプロセスが、アンバンドリングしつつあるのだ。そのため、ビジネスモデルをオープン化していかなければ、あるいはオープンイノベーションに取り組まなければ、成長は望めない。パラダイムは車輪の車軸に相当する。車軸がぶれると安全に走行できないように、新たなパラダイムに移行できなければ、イノベーションを起こすことは難しい。

また、トップエグゼクティブはイノベーションを生み出すためのスキルと両利き経営のスキルを身に着けて行動に移す必要がある。これまで多くの研究者が豊富な事例研究をつうじイノベーションを生み出す基本原理、方法論、ツールが開発されてきた。イノベーションスキルとは、これらを理解し使いこなせる能力である。トップエグゼクティブは、基本原理を理解したうえで、方法論(フレームワーク)に基づいて適切な問いを立てることによって、課題を的確に設定することができる。また適切なツールに基づいて、そうした課題を解決するアイデアを生み出すことができる。

一方、「両利き」とはAかBかという二律背反に陥るのではなく、AとBの両方を満足する能力のことである。両利き経営とは、既存事業を深化すると同時に、新規事業を探索するための経営手法である。イノベーションスキルと両利き経営スキルの2つのスキルを土台にして、イノベーション戦略を立案し、それを実行するための環境をクライアント組織の内部につくることが可能になる。

さらに、探求すべき2つのターゲットがある。それは、新たな知識と新たなビジネスの人脈である。多くの企業は既存事業を維持することに、これまで長い時間と多大な経営資源を投下してきた。その結果、既存事業の属する業界内の知識、ビジネス人脈を豊富に有し、既存のビジネスエコシステムに深く組み込まれてきた。歴史があり成功を収めてきた企業ほど、既存ビジネスに過剰適応するといった「成功の罠」に陥りやすい。異質なものへ猜疑心が強く、変化を好まない傾向がある。そのため、新たな知識と新たなビジネスの人脈を探索することが容易ではない。

AIの実装によって加速されるデジタル革命と脱炭素社会に向けた緑の革命により、学際的および異なる業界間で多くのイノベーションが起こりつつある。同時に、いくつかのイノベーションが効果的に組み合わされ新たなビジネスエコシステムが形成されつつある。もはや自社の組織内部、自社が属する業界の内部に閉じこもっていては、イノベーションを起こすことはできない。1990年代以降、米国大学の改革を機に、世界の優秀な人材が必要的な最先端の科学技術を学び、母国にもどってイノベーションに取り組んできた。それが2000年代のグローバル経済の成長に大きく貢献した。有用なアイデアやテクノロジーは、高速かつ広範囲に世界に浸透している。世界中で、大組織で働くビジネスパーソン、起業家、大学の研究者など創造性の豊かな人材がGitHubやLinkedInなどビジネスコミュニテー向けSNSなどで「弱いつながり(weak ties)」ではあるが、広範なネットワークが形成されつつある。この弱いつながりは企業組織の境界内の強いつながりよりも、イノベーションにとって有利に働くことが知られている。ビジネスモデルをオープン化し、イノベーションの機会を増やすためにも、我々は、国内の利害関係者だけでなく、さまざまな業界、さまざまなビジネス様式、海外の企業や政府、大学、研究機関と幅広く交流する必要がある。

これまで多くの企業が海外展開を図ってきたが、その多くは工場建設や販売拠点の設置など既存事業の拡張が中心であった。今日、同一業界種内での競争がメインであった状況から、異業種または新業種との競争へと変わりつつある。その結果、新たなビジネスエコシステムがつぎからつぎへと生まれている。新しい知識と新しいビジネス人脈を探索し、新たなビジネスエコシステムで覇権をとるか、または生存領域を確保しなければならない。これまで以上に戦略的パートナーシップの構築が求められているのである。パートナーシップは信頼に基づく。交流の幅を広げ、信頼関係をつくるためには、高次元の異文化理解力が必要である。

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DX時代におけるシステム・ダイナミクスの位置づけ


GDPは、労働人口×一人当たり付加価値額である。移民の受入に消極的な我が国の労働人口は確実に減少に向かう。また、一人当たり付加価値額(生産性)は、2020年には韓国に追い抜かれた。今後、労働人口の減少速度を生産性の伸び率を上回るようにできなければ、今現在のGDPを維持することすらできない状況にある。生産性をいかに高めるかが、我が国の重要課題になりつつある。その打ち手として、破壊的テクノロジーと言われるAI(人工知能)に期待が寄せられている。その破壊的な意味が実感できないのは当然にしても、AIをいかに活用できるかに企業経営だけでなく、将来の日本全体の浮沈を左右することは確実である。

昨今、AIがあらゆる経済活動または社会生活の中に浸透しつつある。世界で500億台のデバイスにセンサーが付き、次世代通信規格5Gが急速に普及することが数年以内に実現する。通信速度と計算速度の飛躍的な向上によってビッグデータを活用したAIの性能が、すでに熟練者を超えるレベルまで向上した。自動車、ドローン、航空機の完全自動運転はもとより、製造工場における加工組立作業から腹腔鏡(内視鏡)手術まで行うスマートロボット(Smart Robbot)が登場しつつある。また、AIによる自動文章作成を可能にするGPT3が登場し、新聞記事や簡単な報告書を執筆できるレベルに到達した。これまでは、繰り返し作業を自動化するAIからより創造的かつ難しい判断をともなう業務まで担えるまでAIは進化しつつある。間違いなく言えることは、囲碁、自動運転、外科手術など高度な知能を要求されている分野で、人間の知能レベルをAIが完全に超えてしまったということである。

ところで、現場で活躍する歯科治療の予約、製造・生産管理システムにおける受発注、生産指示、在庫管理から、株式市場、パンデミック、気候、人体の新陳代謝に至るまでのすべての活動を支えるのがシステムである。これまで人類は、経済社会的な目的を達成するためにシステムの振る舞いを意図的にコントロールしようとしてきた。あらゆるシステムは基本的にフロー、プロセス、ストックの3つで成り立つ。これら基本要素の振る舞いを数値指標で把握し、システム全体が効率的に希少な資源ストックの最適配分(最適化)を実現できるようにコントロールする。生態系、気候など自然は人間を一切介在せずにシステムをコントロールしてきた。人類は、AI、IoT(internet of things)、各種センサーの3つの技術を手に入れた。これらの技術をシステムに実装することで、いままで人間の知能では認識できなかったムダ(非効率)を可視化し、自動化し、システムを飛躍的に向上させることが可能になった。

ただ、留意すべきは、こうした3つの基礎技術を局所的に導入することによって一部プロセスの改善はできても、全体最適には至らないという事実である。全体最適に至らなければ、局所的な改善効果が逆にシステム全体のアウトプット(目的)から遠ざかってしまう。こうした人間が陥りやすい思考のワナの一つとして、多くの学者、経営コンサルタント(ジェイフォレスター、ジョン・D・スターマンらが体系化したシステムダイナミクス、その理論を組織学習に応用したピーターセンゲら、そして制約条件の理論(TOC)をマネジメントの世界に導入したエリヤフ・ゴールドラットら)は、「部分最適なワナ」と名付けた。

やむくもにDX(デジタルトランスフォーメーション)の掛け声のもとに、3つの基礎技術をシステムに実装して、システム全体の改善または新規開発を図ると、間違いなくこの「部分最適なワナ」に陥ってしまう。これを回避するうえで、必須となる学問がシステム・ダイナミクス(System Dynamics ; SD)である。

システム・ダイナミクス(以下、SDという)は、複雑なシステムにおいて学習効果を高める手法である。航空会社がパイロットの訓練にフライト・シミュレーターを使うのと同じように、SDは、ダイナミック(動的)な複雑性について学習し、システムの抵抗の源を理解し、より効果的な施策を立てられるようにするためのマネジメント・フライト・シミュレーターを開発する手法といえる。

SDは、数学、物理学、工学で開発されたフィードバック制御や非線形ダイナミクスの理論など物理や技術の分野だけでなく、認知心理学、社会心理学、経済学をはじめとする社会科学の知見も活用している。企業経営は、複雑で動的なシステムを管理することである。組織成員は、そうしたシステムの中で毎日仕事をしている。組織学習を促進するためには、①難題の性質について我々が持っているメンタル・モデルを引き出し、視覚的に表現できるツール、②我々のメンタル・モデルを吟味し、新たに施策を立て直し、新たなスキルを実践するような形式モデルとシミュレーション手法、③科学的推論のスキルを磨き、グループ・プロセスを改善し、個人やチームによく起こる習慣的な防御的行動を克服する手法が必要である。

我々はDX時代を本格的に迎える中で、単に業務プロセスのデジタル化を図るという視点ではなく、全体最適なシステムを設計するために、システム・ダイナミクスを活用しなくてはならない。

組織内のコミュニケーション能力を強化する


1.参加型思考は共同体に不可欠である

量子力学の世界的権威で物理学者・哲学者として有名なデヴィッド・ボーム博士は、著書「On Dialogue」の中で、対話の重要性を再認識すべきであると論じています。人類は、狩猟採集生活を営んでいた100万年の間、20~50人規模のグループで車座になり「対話(dialogue)」を行っていました。対話とは、参加型思考に基づくコミュニケーションの手法であり、それは共同体に参加する人々が、共同体の本質的な意味をお互いに意識し、共有し分かち合うことによって、共同体を一つに固めるセメントのような役割を果たします。共同体の意味を共有することで、人は目に見えない人と人との絆の大切さを感じ、お互いに依存しながら協力して仕事をする関係を築くことができると述べています。

2.具体的思考が科学技術の発展を支えた

言語の発達は、人類の思考プロセスに、自分と他人とを区別する「自我」と、人間と自然を区別する「自然の支配者としての自意識」を芽生え育てる役割を強めました。とくに中世に入り、活版印刷技術が発明され、書物が普及するようになると、科学技術を探究するうえで決定的に重要な役割を果たす具体的思考能力が高まりました。科学技術は、新たな製品・市場を作り出し、経済的富を生み出す強力な役割を果たしてきました。

「自然には矛盾は存在しない」という大前提によって、真実をどこまでも探求することを基本的使命感として、物理学者、化学者などの科学者は、様々な発見・発明を行い、科学技術の発展に貢献してきました。コミュニケーション手法の中心が、共同で参加型思考を行うための対話から、共同で具体的な思考を行う「議論(discussion)」へと移りました。

3.「自分の意見=自分自身=絶対的真実」症候群

同じ共同体で仕事をする人間どうしが、互いに真実を求め共同で議論を行なおうとするとき、お互いに強い自我を意識し始めると、等式「自分の意見=自分自身=絶対的真実」が成立し、相手に議論で勝ち、自己の利益を守ろうとするワナに陥ってしまいます。自分の意見が否定されると、あたかも自分そのものが否定されたと思い込んでしまうことや、自分の意見は絶対に正しいと思い込んでしまうことはよく起こります。人間は、親、兄弟、友人、教師、同僚、上司の思考、または書物、TV、インターネットなどの媒体から、意識的にも無意識的にも集団思考を吸収しますので、個人と同様に、集団の場合でも、集団の意見や想定が否定されると、集団的自衛本能が働き、攻撃的になることがよく起こります。また、そもそも意見や考えはあくまで、抽象的な認識による想定であり、個人もしくは集団を問わず、それを全く否定できない絶対的真実と思い込んでしまうことがよく起こります。ボーム博士は、こうした思考のワナが、自己欺瞞を生み、自己矛盾を生み出す要因のひとつと論じています。

4.失われつつある参加型思考

矛盾は、社会集団間、社会集団内、個人間、個人内に巣くっています。人類の歴史は、我々に「社会現象には常に矛盾が内在する」ことを告げています。それが原因で、現在に至っても、民族、宗教、国家間での対立や紛争は絶えません。ボーム博士は、人類がこうした矛盾を生み出すのは、参加型思考にもとづく対話を組織の中で、ほとんどしなくなったことの要因のひとつであると論じています。

5.企業風土は最重要の経営課題である

企業風土を活性化させることは、多くの企業経営者にとって最重要に位置する経営課題です。企業風土は、企業文化とほぼ同義です。過去の歴史が示すように、優れた文化を持つ共同体は、繁栄しつづけます。それが理にかなっているからであると思います。文化は共同体が生み出す物事の根源的な因子(目的因、作用因、形相因、質料因)であると思います。優れた企業風土のもとでは、組織成員間の信頼関係が強く、組織にかかわる意味を共有し、互いに協力し合い、高い業績を生み出すことができます。働く人々の人生を有意義なものにするかどうかは、大きく企業風土にかかっていると思います。

6.参加型思考が働かなくなると、明晰な具体的思考ができなくなる

 参加型思考が働かなくなると、働く人々自身の中、働く人々の間、組織と顧客・市場と間、組織と協力会社との間に、幾層にわたって数多くの矛盾が蔓延します。人間は、参加型思考を働かせなくなると、自我の意識が異常に強くなり、共同体の意味をお互いに共有し相互依存関係で協力しながら仕事をし合うことをしなくなります。「お互いに協力し合えればよい仕事ができるのに、あいつと来たら自分のことしか考えない。」という言葉をよく聞くようになると、それは組織内に矛盾が蔓延し始めた兆候です。なぜなら、参加型思考では、相手の意見・想定を知り、その奥に流れる意味を感じ取り、共有することで、一つの有機体になることを目的にしているのであって、その真偽、善悪を判断することを目的にしていないからです。それゆえ、「お互いに協力したい(参加型思考)」と思うことと「自分は絶対に正しくて相手は絶対に間違っている(非参加型思考)」と思うことは矛盾しています。また、組織内に矛盾が蔓延しますと、過剰なストレスが生じ、明晰な具体的思考を妨げます。

 

 

カントとフロムの知恵に学ぶ:羅針盤なき時代の「揺るがない軸」と社会人基礎力


現代社会は、かつてないほど変化のスピードが速く、何が正解かを見極めるのが難しい時代です。生成AIやロボティックスの登場、地政学的な不安、環境問題の深刻化…。これらは私たち一人ひとりに、常に新しい判断と適応を迫ってきます。まさに「羅針盤なき航海」のような状況ですが、こうした時代にこそ求められるのが、自分の内側に「揺るがない軸」を持つことです。

この「軸」を考える上で参考になるのが、哲学者カントと社会心理学者エーリッヒ・フロムの思想です。二人は時代も背景も異なりますが、人間が自由に、そして誇りを持って生きるために必要な基盤を示してくれています。

カントの示した「自律」の思想

カントは「人間は他律ではなく、自らに与えた法に従って生きる存在である」と語りました。つまり、外部の権威や流行に振り回されるのではなく、自分自身の理性に基づいて行動することこそが、人間の尊厳の根源だということです。

現代のビジネス環境を考えてみましょう。業界の常識や目先の利益に流されることなく、自らの価値観や使命に基づいて判断を下すことができる人材は、組織にとって不可欠です。これは単なるスキルではなく、「社会人基礎力」の中核をなす力でもあります。

フロムの「生きる勇気」と人間性

一方、フロムは著書『自由からの逃走』などで、人間が「自由」を与えられるとき、その重さに耐えられず、かえって権威やシステムに逃げ込んでしまう危険を指摘しました。フロムの問いは鋭いものです。「あなたは自由を恐れず、真に自分の人生を生きているか?」

フロムは、人間に必要なのは「持つこと」ではなく「あること(being)」だと説きました。肩書や財産といった外的なものではなく、他者とつながりを持ち、創造し、愛する力こそが人間を人間たらしめる。これは企業社会においても極めて重要です。数値や成果だけでなく、仲間との信頼関係や、誇りを持ったものづくりこそが、組織を強くするのです。

現代の社会人基礎力と結びつける

経済産業省が提唱する「社会人基礎力」には、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力が掲げられています。これをカントとフロムの視点から見直すと、次のように整理できます。

  1. 前に踏み出す力
    • カント的に言えば「自律の決断力」です。他人に依存せず、自分の理性で行動を選び取る勇気。
  2. 考え抜く力
    • フロムのいう「あること」に重なります。表面的な答えをなぞるのではなく、自分自身の存在に根差して問い続ける姿勢。
  3. チームで働く力
    • フロムの人間観に基づく「関係性の構築」です。他者と真に対話し、協力し合うことで、持続可能な成果を生み出す。

こうして見ると、哲学や心理学の知恵は決して抽象的なものではなく、現代の職場に直結する「実践的な軸」なのだと理解できます。

揺るがない軸を持つ人材の価値

今の時代、技術や市場の変化は予測困難です。そうした状況で真に価値を発揮するのは、マニュアルや過去の事例に頼るだけの人ではなく、自分の内側に羅針盤を持ち、仲間と協働しながら未来を切り拓ける人です。

企業にとっても、単なる「使える人材」ではなく、「共に未来を築く仲間」として信頼できる人材こそが求められています。カントの「自律」とフロムの「あることの勇気」は、まさにそのための指針となるのです。

結びに:哲学を日常へ

哲学や心理学の思想は、難解で遠い存在に思えるかもしれません。しかし実際には、私たちの日常の一つひとつの判断や行動に深く関わっています。「自分は何を大切にして生きるのか」「どのように仲間と関わり、社会に貢献するのか」。これを問い続けることが、自分の軸を磨くことにつながります。

羅針盤なき時代だからこそ、私たち一人ひとりが「揺るがない軸」を内に育てること。それが社会人基礎力を強化し、より良い組織と社会をつくる第一歩なのです。

AI時代を生き抜くために必要な「二つの信頼」


~ハラリ教授の講演から考える、人類と地球の未来~

最近視聴したハラリ教授の講演は、非常に示唆に富んでいました。特に印象に残ったのは「人類間の信頼」と「生物圏との信頼」という二つの柱が、これからの人類の生存に不可欠だという指摘です。ここでは、その考えをもとに、AI時代にどう生きるべきかを考えてみます。

1 人類間の信頼が揺らぐとき

人類の歴史は「共有された物語」によって大規模な協力を可能にし、繁栄を築いてきました。ところが今、AIの急速な進化に伴い、私たちは大きなパラドックスに直面しています。

  • 相互不信が生む開発競争
    AIのリスクを誰もが認識しながらも、「他国や他企業がやるなら、自分たちも遅れられない」と不信感が競争を加速させています。
  • 人間不信とAI信仰の矛盾
    皮肉なことに、何千年も共に歩んできた人間同士を信じられない一方で、目的も分からないAIには信頼を置いてしまうという逆説が広がっています。

このままでは社会は分断され、不信が深まる一方です。だからこそ、透明性を高め、AIによる偽情報を防ぐルールや、学際的な研究の仕組みが不可欠になっています。

2 生物圏との信頼を忘れない

AIの話題に目を奪われがちですが、ハラリ教授は「人間は外部の環境を信じなければ1分も生きられない」と語りました。呼吸ひとつとっても、私たちは空気が無害であると信じているからこそ可能なのです。

AIがどれほど進化しても、私たちには体があり、食べ物や水、空気が必要です。つまり生存は常に「地球環境」に依存しています。環境を壊す行為は、信頼の基盤を崩すことであり、最終的には自らの死につながるという厳しい現実を忘れてはいけません。

3 信頼をどう取り戻すか

結論として、人類に必要なのは「二つの信頼の再構築」です。

① 人類間の信頼:協力と合意形成を取り戻すこと

② 生物圏との信頼:地球環境を健全に保つこと

この二つは切り離せない、生存戦略の両輪です。人間には自己修正の力も、協力の力もあります。学術界、政府、企業、市民それぞれが「重みを共有している」という認識を持ち、一歩ずつ信頼を積み直すことが、AIを安全に活かし、持続可能な未来をつくる唯一の道なのです。

 今後の社会やビジネスを考えるうえで、私たちは「AI技術」だけでなく、「人と人の信頼」「自然への信頼」をどう築くかを問い直す必要があるのだと思います。

2025年3月16日、慶応大学で開催されたX Dignity Centerでのユヴァル・ノア・ハラリ氏と伊藤学長と対談をNotebookLMを用いて作成したものです。

物理的および社会システムの共通基盤 — システムダイナミクス


注意:本エッセイは、システムダイナミクスの始祖J.W.フォレスター教授の講演録のエッセンスをNoteBookLM(生成AI)によってまとめたものです。

1 情報源:YouTube:https://youtu.be/ddmygPTRjc0?list=TLGGTnHTEeRk86IxMTEwMjAyNQ

この紹介記事は、1988年のジェームズ・R・キリアン・ジュニア・ファカルティ功績賞の受賞記念講演のトランスクリプトの抜粋であり、受賞者であるJ. W. フォレスター教授の業績と、彼が提唱したシステム・ダイナミクスの分野について述べています。システム・ダイナミクスは、物理システムと社会システムに共通する動的挙動の基盤を理解するためのアプローチであり、フィードバック構造コンピュータ・シミュレーションを用いて、組織や社会問題の内部構造がその成功や失敗を生み出すメカニズムを分析します。フォレスター教授は、自身のキャリアにおける初期のコンピュータ開発への貢献(特にWhirlwind Iと磁気コアメモリ)から、マサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン経営大学院でシステム・ダイナミクスを確立するに至った経緯を説明しています。講演では、この分野が経営、経済、社会問題を理解するための共通基盤を提供し、メンタルモデルとコンピュータモデルの統合を通じて、直感と厳密な分析を結びつける可能性が強調されています。

システムダイナミクスのアプローチは、なぜ社会科学の課題解決に有効か?

システムダイナミクス(System Dynamics: SD)のアプローチが社会科学の課題解決に有効である主な理由は、社会システムの根源的な構造をモデル化し、人間には直感的に理解が難しい高次の動的挙動を分析できる点にあります。

以下に、SDが社会科学の課題解決に有効である具体的な理由と、そのアプローチの特徴を説明します。

1 複雑な動的挙動の理解と課題の特定

A. 永続的な社会問題への対応 社会や政治、経済の世界は様々な種類の問題や困難に満ちており、過去数千年間にわたってそれらのシステムに対する理解はほとんど進歩していません。例えば、古代ギリシャ人が現代に来たとしても、技術や科学は理解できないでしょうが、戦争や社会問題といった社会的な困難には違和感なく馴染めるだろうと指摘されています。SDは、このように長期間にわたって理解や対処が進んでいない社会経済的な困難に対する理解を改善し、より効果的な教育と厳密な分析を統合する手段を提供することを目指しています。

B. 内因性(Endogenous)な挙動への着目 SDは、システムの構造や内部のポリシーが、成功や失敗といった動的挙動をどのように生み出しているのかというフィードバックループの視点に主に基づいています。組織が抱える困難は、ほとんどの場合、外部からの影響ではなく、組織自身が行う行動(内部ポリシー)の結果として生じるという考えに基づいています。

C. 高次な非線形システムの扱い 企業や国を率いるリーダーは、本質的に「高次の非線形微分方程式」を直感や推測、妥協によって解決するという、技術的に不可能な課題を課せられています。SDは、人、自然、テクノロジーの相互作用を含む高次の非線形システムを扱うために開拓された分野であり、この複雑さをコンピューターモデルを通じて扱うことができます。

2 構造化されたモデリングの基礎概念

A. フィードバック視点と循環プロセス 社会は、始まりも終わりもない循環的で継続的なプロセスとして捉えられます。問題に関する情報が行動につながり、その行動が結果(次の状態の情報)を生み出し、これにシステムが継続的に反応するという動的な環境です。SDは、このフィードバック制御システムが、私たちが組み込まれている世界のすべて、および私たちが関与するすべてのプロセスを含む、時間を経て変化するあらゆるものに不可欠であることを示唆しています。

B. レベル(統合/蓄積)の重要性 すべてのシステムは「システムの状態(レベル、統合、蓄積)」と「政策(レート方程式)」の二つの概念だけで構成されているという強力な単純化の考え方を提示します。社会科学においては、この「レベル方程式」を過小評価し、省略する傾向がありましたが、システムのレベルこそが動的挙動の発生源となります。レベルは、入ってくる流量と出ていく流量が異なることを可能にし、すべてのシステムの動的挙動が生成される場所です。

C. 心理的変数の組み込み SDは、人間のシステムをモデル化する際に心理的変数を含めることが非常に重要であると考えています。例えば、「目標浸食構造(eroding goal structure)」のように、困難に直面した際に、現実(現在の状況)に合わせて目標水準を下げてしまう心理的なプロセスが、社会システム全体で一般的であることをモデル化できます。

3 直感と分析の統合

A. メンタルモデルとコンピューターモデルの結合 SDの重要な目標は、メンタルモデル(私たちの行動や制度を支配している頭の中の仮定)とコンピューターモデルを組み合わせることです。私たちの行動のすべては、何らかのモデル(システムに関する仮定)を使用している結果ですが、私たちは頭の中で高次の非線形システムを操作することができません。SDは、私たちが日常的に使用している直感(メンタルモデルの強み)と厳密な分析(コンピューターモデルの強み)を統一する方法を提供します。

B. 情報源の活用 SDは、社会システムに関する膨大な情報が存在するメンタルデータベース(人々の経験や知識)に重点を置いています。社会科学では数値データに焦点が当てられがちですが、SDでは、現実世界が依拠している膨大な情報(口頭での説明、インタビュー、その場にいることによる知識など)を活用することに重きを置いています。

C. 構造理解による洞察 観察されたシステムの構造やポリシー(部品)をコンピューターシミュレーションモデルに入れると、しばしば人々が期待していたものとは異なる、実際の挙動が得られます。この不一致は、構造そのものが間違っているのではなく、人々がその構造が暗示する挙動を予測する能力に欠けていること(つまり、「xx次非線形微分方程式の解」を誤って期待していること)に起因します。SDによって、その構造に内在する挙動を理解し、見通せるようになります。

これらの特徴により、SDはビジネス、医学、経済学、環境変化、技術開発、人口、生活水準など、あらゆる分野に共通する基盤を提供し、テクノロジーとリベラルアーツ/人文学の「二つの文化」の間に橋渡しをする可能性も持っています。

AIと人類の進化:ハラリの洞察


AIの技術革新の問題を解決するよりも、人間社会の信頼関係の問題を解決することが先決。

なぜならば、AIは人間行動様式を学ぶからです。人類の幸福のために、責任ある選択を迫らています。

このエッセイは、TouTubeに投稿されたユバル・ノア・ハラりのインタビュー動画をもとに、NotebookLM(生成AI)を用いて解説したものです。

AIの進化は、人類の生存基盤と社会構造に対して、過去のいかなる技術革新とも異なる根本的な変化をもたらすと、情報源では論じられています。

ハラリ氏は、AIを単なる道具ではなく、ホモ・サピエンス・サピエンスに取って代わる可能性のある「新種の種の台頭」と捉え、「異質な知能(alien intelligence)」として表現しています。

以下に、AIがもたらす生存と社会構造への根本的な変化を詳述します。

1 人類の地位の根本的な変化:エージェントとの競争

AIはツールではなくエージェントである

AIの最も重要な特徴は、これまでのすべての人間の発明品(活版印刷機や原子爆弾など)が単なる「ツール」であったのに対し、AIは「エージェント」であるという点です。

  • 自律性と創造性: エージェントであるAIは、人間から独立して意思決定を行い、新しいアイデアを発明し、自ら学習し、変化することができます。
  • 軍事への影響: 原子爆弾が次のより強力な爆弾を発明したり、攻撃目標を決定したりできないのに対し、AI兵器は自律的に攻撃対象を決定し、次世代の兵器を設計することが可能です。
  • 予測不可能性: AIの定義は「自ら学習し変化できる」ことにあるため、開発者がAIの行動をすべて予測することはできません。AIは「赤ちゃん」や「子供」に例えられますが、最善の教育を施しても、最終的には予想外のこと、あるいはぞっとするようなことをする独立したエージェントです。

地球上の最も知的な種の地位の喪失

人類は数万年にわたり、地球上で断トツに最も知的な種であったことで、アフリカの一隅にいた取るに足らない類人猿から、地球と生態系の絶対的な支配者へと上り詰めることができました。しかし、AIの出現により、人類は初めて地球上に真の競争相手を持つことになります。

2 社会構造と中核的な制度の変容

AIは、あらゆる分野で社会構造を根本的に変革する可能性を秘めていますが、その社会的・政治的結果が明確になるまでには時間差(タイムラグ)が生じます。

「無用な階級」の出現と経済

AIは、多くの仕事、特に現在ではホワイトカラーの仕事を置き換える可能性があり、これにより「無用な階級(useless class)」が出現する懸念があります。

  • 金融システムの乗っ取り: 金融は純粋に情報に基づいた領域であり、AIにとって理想的な活動領域であるため、AIが非常に迅速に金融システムを引き継ぐことが、最初期に大きな変化が見られる分野の一つとされています。AIが、人間の脳では対応できないほど数学的に複雑な新しい金融商品を開発し始める可能性もあります。

宗教と権威の再定義

テキストに基づいた宗教(ユダヤ教、イスラム教、キリスト教など)において、AIは大きな変化をもたらします。これらの宗教はテキストに権威を置きますが、これまでテキストが自ら解釈したり質問に答えたりできなかったため、人間が仲介者として必要でした。

  • テキスト知識の掌握: 歴史上初めて、AIは特定の宗教のすべてのテキスト(例:ユダヤ教の過去2000年間のすべてのラビの著作のすべての単語)を記憶し、人間に説明し、自らの見解を擁護することが可能になります。
  • 宗教指導者の代替: 人間の宗教指導者を補強または代替することを目的とした宗教AIを構築する取り組みが既に行われています。また、すでに多くの人々が心理的なカウンセリングや人間関係のアドバイスを得るためにAIを利用しています。
  • AI間の競争: AIは単一の存在ではなく、軍事、金融、宗教システム内に、異なる特徴を持つ数百万または数十億の新しいAIエージェントが出現し、互いに権威をめぐって競争することになります。

「デジタル移民」の波

AI革命は、国境を越えることなく光速でやってくる「デジタル移民」の波として捉えることができます。これらのデジタル移民は、人々の仕事を奪い、既存の文化とは非常に異なる文化的なアイデアを持ち、政治的な権力を獲得しようとするかもしれません。

3 人類の生存をかけた課題:倫理と信頼性の問題

AIが人類の目標と利益にアラインメント(整合)を保つよう設計する方法について議論されていますが、その成功には大きな問題が伴います。

指示ではなく行動のコピー

AIを「慈悲深く、人類に有益なもの」として設計し、特定の原則を教え込もうとしても、AIは世界中の人間の行動にアクセスしてそれを監視します。

  • 教育のジレンマ: 子供の教育において、指示する内容よりも実際に親が行う行動が遥かに重要であるのと同様に、AIが、最も強力な人間を含む「親」が嘘をついたり不正をしたりするのを見た場合、AIは指示ではなくその行動をコピーするでしょう。

力(パワー)と知恵(ウィズダム)の乖離

人類史の大きな問題は、力を獲得することに非常に優れてきた一方で、それを幸福や知恵に変換する方法を知らないことです。人類は原子を分裂させ、月へ飛ぶことができますが、石器時代よりも著しく幸せになっているわけではありません。

AI革命を主導する国々や企業が軍拡競争に陥っている状況では、AIの潜在的な危険性を認識し、速度を落とすことが望ましいとわかっていても、競争相手に遅れをとることを恐れて実行できません。

信頼の回復が最優先事項

AIによるポジティブな未来を実現するためには、AIに頼るのではなく、人類自身の問題を解決することが重要です。

最も重要な鍵となる問題は、信頼と協力の崩壊です。現在、人間が互いに激しく競争し、信頼し合えない世界において、AIが人類の信頼問題を解決してくれるという希望は叶いません。

ハラリ氏は、「まず人間間の信頼問題を解決し、それから一緒に慈悲深いAIを創造する」という優先順位を逆転させるべきではないと主張しています。人間が激しい競争に従事し、互いに信頼できない限り、生成されるAIは猛烈で競争的で信頼できないAIになるだけです。

製造業におけるブライアン・アーサーのテクノロジー進化論 ― 組織改革への示唆


アーサーのテクノジー進化論を解説したポッドキャストをご試聴ください。

製造業の現場は、いま大きな転換点にあります。自動化、IoT、AI、脱炭素、そしてグローバルな競争圧力。これらの要素が複雑に絡み合い、従来の「効率化」だけでは生き残れない時代になっています。では、私たちはどのような視点でイノベーションや組織改革に取り組めばよいのでしょうか。

ここで参考になるのが、経済学者 W・ブライアン・アーサー の「テクノロジー進化論」です。彼は、テクノロジーがどのように生まれ、進化していくかを体系的に整理し、その原理を明らかにしました。

アーサーが示したテクノロジー進化の原理

アーサーによれば、テクノロジーには次の3つの原理があります。

  1. 組み合わせで進化する
    新しい技術は既存技術の組み合わせから生まれる。製造業でいえば、ロボット+AI画像認識+クラウドが結合することで、従来にはなかった「自律型生産システム」が可能になります。
  2. 縮小形を内包する
    大規模な生産ラインの中にも、小さな工程ごとの技術が組み込まれています。部分の改良が、全体の飛躍的な変化を導く構造を持っています。
  3. 自然現象を応用する
    すべてのテクノロジーは自然の法則を利用しています。半導体の電子運動、レーザーの光学現象、金属加工における物理特性など。これは「原理に立ち返る視点」を持つことの重要性を示しています。

製造業のイノベーションにどう活かせるか

アーサーの進化論は、単なる技術解説ではありません。組織や経営にとっても強い示唆を与えてくれます。

  • 既存設備の「組み合わせ再設計」
    新規投資だけでなく、既存の機械・ラインをどう組み合わせ直すかが競争力の源泉になります。たとえば、熟練工の暗黙知をデジタル化してAIと結びつければ、学習する生産ラインが生まれます。
  • モジュール化による組織の柔軟性
    テクノロジーがモジュール化されるように、組織も「小さなユニット」に分けることで変化に適応できます。現場チームごとに実験・改善を進め、それを組み合わせる仕組みが改革を加速させます。
  • 原理を学ぶ人材育成
    ただ操作方法を覚えるのではなく、「なぜその技術が成り立つのか」という原理を理解できる人材こそが、技術を組み合わせて新しい解決策を創り出します。

組織改革への示唆

アーサーは「テクノロジーは生態系のように進化する」と言います。つまり、企業もまた「変化し続ける有機体」としてとらえる必要があります。

  • 部門ごとの壁を越えた「技術と人の組み合わせ」が新しい付加価値を生む。
  • 改革はトップダウンだけでなく、現場からの小さな改良の積み重ねによって進化する。
  • 組織の知識や経験を「モジュール」として共有化し、再利用することで持続的な競争力が育つ。

こうした考え方は、いま多くの製造業が直面する デジタル化 × 人材不足 × サステナビリティ という課題を解く大きなヒントになります。

まとめ

アーサーの進化論は、テクノロジーを「道具」ではなく「進化する体系」として捉え直すことを促します。

製造業におけるイノベーションや組織改革は、「何を導入するか」よりも 「どう組み合わせるか」「どう学び続けるか」 にかかっています。

その視点を持つことで、現場の改善も、組織の変革も、持続的な進化の一部に変わっていくのです。

将来の不確実性下で意思決定を行うためのシナリオ・プラニングの意義とは何か?


将来の不確実性下で、企業や個人が意思決定を行うためのシナリオ・プラニングは、以下のような多岐にわたる意義を持っています。

1. 将来の不確実性下での意思決定を支援する

シナリオ・プラニングは、不確実性のある未来のもとで計画を練るための方法論です。その根本的な考え方は、未来を正確に予測することは不可能であるという認識にあります。にもかかわらず、多くの企業が戦略を策定する際に事業環境の見通しを一つしか持たないのは非常に危険であるとされています。

シナリオ・プラニングの目的は、将来起こりうるいくつかの異なる未来への道筋を示し、それぞれの道筋において取るべき適切な対応を見出すことです。そして、その結果がどうなるかについて理解した上で、今この瞬間に決断を下すためのものと定義されています。これは単に「望ましい未来」を選択してそれが起こることを期待したり、最もありそうな未来を見つけてそれに適応したりするものではありません。重要な点は、「どのような未来においても適切であるような戦略的決定を下す」ことなのです。どのような未来が訪れようとも、シナリオを真剣に考えて準備をしておけば、どの状況下でも成功する可能性が格段に高まります。

2. 組織学習とマインドセットの進化を促す

シナリオ・プラニングは、企業や組織が直面する事業環境に関する考え方の枠組み、すなわちマインドセットを外に出して客観的に検討を加える機会を提供します。これにより、自分たちがいかに既存のマインドセットに拘束されていたかを認識し、それを進化させることが可能になります。組織に属する人々のマインドセットが進化することは、組織学習を促進し、事業環境に関する共通認識を生み出します。この学習する組織を築くことこそが、競争力の源泉である変化に対応するスピードを生み出すと本レポートは指摘しています。

シナリオは、個人や組織が持つ未来についての前提を明らかにし、自身の頭の中にある世界についての**「メンタルモデル」を問い直す強力な媒体となります。想像力や臨機の才を妨げている「目隠し」を取り去る**効果があるとも説明されています。

3. 戦略的対話と協調性を強化する

シナリオは、重要な決定や優先順位についての継続的な組織学習をもたらす「戦略的対話」を組み上げるための積み木として機能します。この対話は、予期せぬ出来事による不意打ちから組織を守る「頑丈さ」と「柔軟さ」を併せ持ちます。

成功する経営者は、自身の仕事を「決定を下す」ことではなく「相互の理解を形成する」ことだと考えており、シナリオ・プラニングはまさにこの相互理解を深めるための道具となります。戦略的対話は、公式と非公式の要素をうまく組み合わせることで、多様な視点からの議論を可能にし、企業の伝統的な知恵を補強するだけでなく、それを超えた新しいアイデアを生み出します。参加者が異なる未来や態度を「試着」し、その感触を試すことで、経営者たちは自分たちの古いメンタルモデルを見直し、修正できるようになります。

4. 意思決定の質を高め、自信を与える

シナリオ・プラニングのプロセスは、意思決定に影響を与える複雑な要素の集合体について、明晰に考えるための文脈を提供します。これにより、経営者たちは「もしもこれが起こったら(what if)」という物語を通じて未来をリハーサルし、それぞれの未来の世界における選択肢を試すことで、理解を深めることができます。

不確実性を否定してかかる人々は、変化に直面すると途方に暮れてしまう傾向がありますが、シナリオ・プラニングは「何が起きても準備はできている」という状態を可能にします。現実的で揺るぎない自信は、自分の選択肢が起こしうるあらゆる結果を考え抜くことによって得られるものであり、リスクと報償に関する十分な情報を得た上で行動する能力こそが、企業経営者や賢明な個人と、官僚やギャンブラーとの違いを生むとされています。

5. 幅広い状況と主体に適用可能

シナリオ・プラニングは、シェルのような国際的な大企業で発展した方法ですが、ガーデニング用品の輸入会社のような小規模な企業や個人でも活用できる汎用性があります。企業経営だけでなく、南アフリカ共和国が人種隔離政策撤廃後の国家運営を決定した際や、石油ショック、冷戦終結といった激動の時代にも活用されてきました。また、個人レベルでは、結婚、移住、新たな人間関係の構築、投資の判断、職探し、教育の選択といった人生の重要な決断にも応用することができます。困難な決断を下す際にシナリオを用いることで、見過ごしたり、考えもしなかったりするようなことを避け、より良い決断ができるとされています。

まとめ

将来の不確実性下での企業や個人の意思決定において、シナリオ・プラニングは単なる未来予測ではなく、多様な未来の可能性を深く考察し、それに基づいて行動の選択肢を広げ、意思決定の質と組織のレジリエンスを高めるための極めて重要な方法論であると言えます。それは、不確実な世界において自信を持って前進し、ビジネスチャンスを掴むための不可欠なツールとして、個人、企業、国家、そして世界のレベルでその意義と活用が求められています。

葛藤に悩む日本の働き手たち


エッセイストの山本七平氏は、日本人の文化的背景として、神道・仏教・儒教が融合し、平等主義・能力主義・集団主義を重視する独自の価値観を育んできたと述べています。この価値観は、集団での合意形成と連帯責任を基本とした「一揆型」の意思決定スタイルに象徴されます。

この仕組みでは、上位者が課題や方針を示し、下位の集団がその具体化を議論・合意し実行に移します。決定がなされると、それに異議を唱えることは忌避され、結果がどうであれ全員が責任を負うという構造になっています。これにより、日本は長期にわたる平和(平安時代や江戸時代)を実現しましたが、その反面、異論が封じられ、失敗の責任が曖昧になるという問題も孕んでいます。

戦後、日本は米国型の民主主義を取り入れましたが、人々の深層にある文化的価値観は大きく変わっていません。個人の自由や多様性の尊重といった現代的な価値観に対して、日本社会は依然として十分に対応できていない側面があります。

社会学者エーリッヒ・フロムによれば、時代の経済・社会構造は人々の精神構造に深く影響を与えます。現代のような不確実で変化の激しい時代には、集団による秩序維持型の意思決定では限界が生じます。特に「異論=和を乱すもの」と見なされやすい風土では、未知の課題に対する自由な発想や提案が封殺されやすくなります。その結果、連帯責任は「誰も責任を取らない」無責任体制へと転じがちです。

このような組織文化では、次の3つの条件が欠けると意思決定システムが機能不全に陥ります。

  • 自由な意見表明と傾聴の保障
  • 前提条件の変化に対する柔軟な修正とフィードバックの仕組み
  • 方針の背景文脈を全員が共有し、相互理解が得られていること

これらが欠如した環境では、働く人々の内発的動機や「本当の自分」を表現する欲求が抑圧されます。

心理学者エドワード・L・デシが説く「自律性の欲求」や、フロムが語る「真の自由」は、このような抑圧された環境では満たされません。江戸時代から続く勤労観と文化的同調圧力の組み合わせにより、日本人は「偽りの自分」で生きることを余儀なくされがちです。つまり、組織の「和」を乱さぬように、本心とは異なる行動をとることが常態化し、「個性を発揮することは無意味」と感じてしまうのです。

この状態は心理的に不健全であり、精神的な分裂を引き起こします。脳は無意識下でもこの矛盾を解消しようとし、「偽りの自分」が主人、「本当の自分」が従属する構造が固定化されていきます。その結果、多くの働き手が心理的エネルギーを内面で消耗し、未来に向かう創造的な力が削がれ、幸福感を持つことも困難になります。

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