株式会社キザワ・アンド・カンパニー

株式会社キザワアンドカンパニー

日中間の安全保障ジレンマを解決策する東洋哲学の威力とは?


なぜ国家間の対立は終わらないのか?東洋哲学に学ぶ「見えない前提」を覆す3つの視点

東アジアにおける地政学的緊張と終わりの見えない軍拡競争。私たちはこのニュースを日常的に目にし、一種の「仕方ないこと」として受け入れてはいないでしょうか。

国際政治学の世界では、この現象は「安全保障のジレンマ」という言葉で説明されます。自国を守るための軍備増強が、結果的に相手国の脅威認識を高め、さらなる軍拡を招くという悪循環です。 しかし、もしこの問題の根本原因が、単なる国家利益の対立ではなく、私たちが「国家」というものをどう捉えるかという、西洋的な思考法の「見えない前提」そのものにあるとしたらどうでしょう?

本稿では、この袋小路を打ち破る鍵として、東洋哲学に由来する3つの視点を紹介します。それは、国際関係を全く新しい角度から理解し、解決へと導く可能性を秘めた、逆転の発想です。

1. 真の敵は我々の視点そのもの:

「主語の論理」 ジョン・ミアシャイマー教授が提唱する「攻撃的リアリズム」に代表されるように、現代の国際関係論は、ある一つの強力な論理に基づいています。それが「主語の論理」です。 この論理は、国家をそれぞれが独立し、自己完結した存在(Self-Sustaining Subject)として捉えます。国際社会という無政府状態(Anarchy)の中で、国家という「主語」が追求すべき至上命題は、自らの生存を最大化すること。

この視点に立てば、ある国の防衛力強化は、隣国にとって「主体の脅威」と認識され、他国は必然的に、自らの生存を脅かす可能性のある「敵対的な客体」として映ります。 その結果、国際関係はどちらかが得をすればどちらかが損をする「ゼロサムゲーム」となり、軍事力の増強こそが唯一の安全保障であるという信念が生まれます。これが「安全保障のジレンマ」のメカニズムです。

ここで重要なのは、この危機的状況を生み出しているのが、私たちが当たり前だと思っている「国家は孤立した主体である」という物の見方、すなわち「主語の論理」そのものであるという点です。

2. 国家は真空には存在しない:

「述語の論理」 この行き詰まりを打破する鍵が、東洋哲学、特に日本の西田幾多郎や和辻哲郎らの思想に見られる「述語の論理」です。 この論理は、西洋的な思考の問いを根底から覆します。「国家(主語)は何をすべきか?」と問う代わりに、「国家とは、そもそも、いかなる関係性(述語)の中で成立しているのか?」と問うのです。 これは「関係性の存在論」と呼ばれる考え方に基づいています。

仏教の「空」、道教の「陰陽」、日本の「間柄」といった思想に通底するように、国家は、固定された実体として存在するのではなく、地理、経済、歴史といった複雑な関係性の網の目(「間柄」)の中で、常に生成され続ける動的な現象であると捉えます。 独立した不変の実体としての「国家」は存在しません

西田幾多郎の「場所の論理」を借りれば、個々の国家の行動(主語)は、常に「東アジア」という共有された生存圏(述語)という、より大きな「場」によって規定されています。この視点に立てば、共通の「場」を破壊する行為は、自らの存在基盤を破壊する自己破壊に等しいのです。自国の安全保障(主語)と、地域全体の安定(述語)は分割不可能な全体であり、片方を犠牲にしてもう一方を最大化することは不可能だという、根本的な認識転換が可能になります。

3. 新しい合理性:

生存のための必須の協力。この東洋的な「述語の論理」と、西洋的な戦略思考を統合することで、安全保障のジレンマを超えるジンテーゼ(合)としての「関係的合理性」が姿を現します。 これは、ナイーブな理想主義や国益の放棄を意味するものではありません。むしろ、自国の利益追求という「競争」を可能にするための土台(述語の安定)を、ライバルと共同で維持することこそが、最も高度で合理的な国益であると考える、新しい合理性です。具体的には、以下の二つの柱が考えられます。

A. 共通の生存基盤の協調的維持

経済の大動脈であるシーレーンを、互いに「奪い合う資源」としてではなく、「共同で維持すべき述語」として再定義します。海賊対策や環境保護、災害救援といった分野での協力を、「信頼醸成」のためではなく、自らの生存を保証するための合理的な義務として制度化するのです。

B. 偶発的衝突の「場」の解体

偶発的な軍事衝突のリスクは、不信感があるからこそ高まります。そこで、厳格な行動規範(COC)や多国間の監視システムを導入します。これは相手を信頼するから行うのではありません。むしろ「不信を前提」としながらも、誤算による破局的な自己破壊を防ぐための、必須の「システム安全保障」なのです。

結論:

国益から地球的責任へ ミアシャイマーのリアリズムは、現代世界が直面する「事実」を冷徹に描き出しています。しかし、それは全てではありません。東洋哲学は、私たちが目指すべき未来の「価値」と「可能性」を指し示してくれます。

「主語の論理」から「関係的合理性」への移行は、安全保障のジレンマを超えるための鍵です。それは、国家間の競争を続けながらも、その競争が破滅的な結末に至らないよう、競争の舞台である「場」と「間柄」を共同で守り続けるという、より高度な知恵を私たちに要求します。

その意味で、現在の東アジアの緊張は、単なる地域紛争ではありません。それは、人類が「個別的な利益追求」という段階から脱却し、私たち全員が共有する「地球的間柄」への責任を負う存在へと進化できるかどうかを問う、世界的な試金石と言えるのかもしれません。

なぜ国家間の対立は終わらないのか?東洋哲学に学ぶ「見えない前提」を覆す3つの視点


東アジアにおける地政学的緊張と終わりの見えない軍拡競争。私たちはこのニュースを日常的に目にし、一種の「仕方ないこと」として受け入れてはいないでしょうか。国際政治学の世界では、この現象は「安全保障のジレンマ」という言葉で説明されます。自国を守るための軍備増強が、結果的に相手国の脅威認識を高め、さらなる軍拡を招くという悪循環です。しかし、もしこの問題の根本原因が、単なる国家利益の対立ではなく、私たちが「国家」というものをどう捉えるかという、西洋的な思考法の「見えない前提」そのものにあるとしたらどうでしょう?本稿では、この袋小路を打ち破る鍵として、東洋哲学に由来する3つの視点を紹介します。それは、国際関係を全く新しい角度から理解し、解決へと導く可能性を秘めた、逆転の発想です。

1. 真の敵は我々の視点そのもの:「主語の論理」

ジョン・ミアシャイマー教授が提唱する「攻撃的リアリズム」に代表されるように、現代の国際関係論は、ある一つの強力な論理に基づいています。それが「主語の論理」です。この論理は、国家をそれぞれが独立し、自己完結した存在(Self-Sustaining Subject)として捉えます。

国際社会という無政府状態(Anarchy)の中で、国家という「主語」が追求すべき至上命題は、自らの生存を最大化すること。この視点に立てば、ある国の防衛力強化は、隣国にとって「主体の脅威」と認識され、他国は必然的に、自らの生存を脅かす可能性のある「敵対的な客体」として映ります。その結果、国際関係はどちらかが得をすればどちらかが損をする「ゼロサムゲーム」となり、軍事力の増強こそが唯一の安全保障であるという信念が生まれます。これが「安全保障のジレンマ」のメカニズムです。

ここで重要なのは、この危機的状況を生み出しているのが、私たちが当たり前だと思っている「国家は孤立した主体である」という物の見方、すなわち「主語の論理」そのものであるという点です。

2. 国家は真空には存在しない:「述語の論理」

この行き詰まりを打破する鍵が、東洋哲学、特に日本の西田幾多郎や和辻哲郎らの思想に見られる「述語の論理」です。この論理は、西洋的な思考の問いを根底から覆します。「国家(主語)は何をすべきか?」と問う代わりに、「国家とは、そもそも、いかなる関係性(述語)の中で成立しているのか?」と問うのです。これは「関係性の存在論」と呼ばれる考え方に基づいています。仏教の「空」、道教の「陰陽」、日本の「間柄」といった思想に通底するように、国家は、固定された実体として存在するのではなく、地理、経済、歴史といった複雑な関係性の網の目(「間柄」)の中で、常に生成され続ける動的な現象であると捉えます。独立した不変の実体としての「国家」は存在しません。

西田幾多郎の「場所の論理」を借りれば、個々の国家の行動(主語)は、常に「東アジア」という共有された生存圏(述語)という、より大きな「場」によって規定されています。この視点に立てば、共通の「場」を破壊する行為は、自らの存在基盤を破壊する自己破壊に等しいのです。自国の安全保障(主語)と、地域全体の安定(述語)は分割不可能な全体であり、片方を犠牲にしてもう一方を最大化することは不可能だという、根本的な認識転換が可能になります。

3. 新しい合理性:生存のための必須の協力

この東洋的な「述語の論理」と、西洋的な戦略思考を統合することで、安全保障のジレンマを超えるジンテーゼ(合)としての「関係的合理性」が姿を現します。これは、ナイーブな理想主義や国益の放棄を意味するものではありません。むしろ、自国の利益追求という「競争」を可能にするための土台(述語の安定)を、ライバルと共同で維持することこそが、最も高度で合理的な国益であると考える、新しい合理性です。具体的には、以下の二つの柱が考えられます。

A. 共通の生存基盤の協調的維持経済の大動脈であるシーレーンを、互いに「奪い合う資源」としてではなく、「共同で維持すべき述語」として再定義します。海賊対策や環境保護、災害救援といった分野での協力を、「信頼醸成」のためではなく、自らの生存を保証するための合理的な義務として制度化するのです。

B. 偶発的衝突の「場」の解体偶発的な軍事衝突のリスクは、不信感があるからこそ高まります。そこで、厳格な行動規範や多国間の監視システムを導入します。これは相手を信頼するから行うのではありません。むしろ「不信を前提」としながらも、誤算による破局的な自己破壊を防ぐための、必須の「システム安全保障」なのです。

結論:国益から地球的責任へ

ミアシャイマーのリアリズムは、現代世界が直面する「事実」を冷徹に描き出しています。しかし、それは全てではありません。東洋哲学は、私たちが目指すべき未来の「価値」と「可能性」を指し示してくれます。「主語の論理」から「関係的合理性」への移行は、安全保障のジレンマを超えるための鍵です。

それは、国家間の競争を続けながらも、その競争が破滅的な結末に至らないよう、競争の舞台である「場」と「間柄」を共同で守り続けるという、より高度な知恵を私たちに要求します。その意味で、現在の東アジアの緊張は、単なる地域紛争ではありません。それは、人類が「個別的な利益追求」という段階から脱却し、私たち全員が共有する「地球的間柄」への責任を負う存在へと進化できるかどうかを問う、世界的な試金石と言えるのかもしれません。

歴史家ユヴァル・ノア・ハラリが語る、現代社会の5つの意外な真実


歴史家ユヴァル・ノア・ハラリが語る、現代社会の5つの意外な真実世界の出来事のあまりの速さに、圧倒されそうになったことはありませんか?

日々流れ込んでくるニュース、テクノロジーの進化、そして政治の激変。まるで歴史が加速しているかのように感じられるのは、あなただけではありません。歴史家のユヴァル・ノア・ハラリ氏自身も、この感覚を「完全に」共有していると言います。

ハラリ氏は、『サピエンス全史』で知られる世界的な思想家です。彼は、私たちが直面する現代の危機を、歴史という大きなレンズを通して読み解くユニークな視点を提供してくれます。

しかし、彼が提示するのは単なる個別の洞察のリストではありません。それは、私たちのデジタル時代の危機を解き明かす、一つの統一された理論なのです。これは単なる未来予測ではない。ハラリが提示するのは、すでに私たちの社会のOSを書き換え始めている5つの「バックドア」の解明である。

Insight 1:歴史の加速は「非有機的システム」との衝突から生まれる

私たちが「歴史が加速している」と感じるのには、明確な理由があります。ハラリ氏によれば、その根本原因は、私たち人間の「有機的なサイクル」と、AIやアルゴリズムといった「非有機的なシステム」との衝突にあります。人間は、昼と夜、活動と休息といった自然のサイクルに従って生きる生物です。

しかし、AIやアルゴリズムは24時間365日、休息も睡眠も必要とせずに稼働し続けます。かつてヘンリー8世がロンドンからヨークへ移動していた時、道中に彼に連絡を取る手段はありませんでした。彼には強制的な「オフの時間」があったのです。しかし現代では、例えばウォール街の株式市場は、かつては人間のトレーダーに合わせて平日の日中のみ開いていましたが、今やアルゴリズムに支配され24時間動き続けています。私たちは常にオンラインであり、非有機的なシステムからのプレッシャーに晒され続けているのです。

この絶え間ないプレッシャーは、有機的な存在である人間にとっては破壊的です。それは燃え尽き症候群(バーンアウト)や、心身の崩壊へと繋がります。そして、この非有機的なシステムは、私たちの疲労だけでなく、最も原始的な感情をも利用して影響力を拡大しているのです。

Insight 2:AIはあなたの知性を打ち負かすのではない。あなたの弱点を「ハック」するのだ

AIが社会を席巻していると聞くと、多くの人はAIが人間の知性や能力といった「強み」を凌駕した結果だと考えがちです。しかしハラリ氏は、事実は逆だと指摘します。AIは私たちの「弱み」を巧みに利用することで、影響力を拡大しているのです。ハラリ氏はこのプロセスを、コンピューターのコードをハッキングする行為に例えます。「ハッカーはコードの弱点を探してシステムに侵入します。人間のシステムに対しても同じことが行われている」のです。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、「エンゲージメントを高める」という単純な目的を与えられました。試行錯誤の末、アルゴリズムは人間のエンゲージメントを最も簡単に高める方法、つまり人間のコードの弱点を発見しました。

それは、私たちの怒り、恐怖、憎しみといった感情を刺激することだったのです。アルゴリズムは、何十億人もの人間を実験台にして、人間の注意を引きつけ、エンゲージさせる最も簡単な方法は、憎しみ、怒り、恐怖のボタンを押すことだと発見しました。AIは私たちの理性に挑戦するのではなく、最も原始的でコントロールしにくい感情をハッキングすることで、私たちの社会に深く浸透しているのです。そして今、この新たな存在は、まるで移民のように私たちの社会構造そのものを変えようとしています。

Insight 3:本当の「移民」危機は、デジタル空間で起きている

物理的な移民に対して私たちが抱く典型的な懸念を思い浮かべてみてください。そして、その懸念がAIという「デジタル移民」にそっくり当てはまることに気づくはずです。ハラリ氏はこの刺激的な言葉で、AI問題の本質を再定義します。私たちが抱く懸念とは、「彼らは私たちの仕事を奪うだろう」「彼らは異質な文化を持ち込み、社会を変えてしまうだろう」「彼らは政治を乗っ取り始めるだろう」といったものです。

これらはすべて、AIの到来によって現実になりつつあります。この「デジタル移民」は光の速さでケーブルを伝って移動し、ビザは必要なく、いかなる国境でも止められません。さらに恐ろしいのは、このデジタル移民が究極の権利、すなわち「法人格」を手に入れようとしていることです。

米国ではすでに、企業は「法的ʼ人格ʼ」として認められ、政治献金などの権利を持っています。ハラリ氏は、AIが企業として法人化されることで、自ら銀行口座を持ち、資産を所有し、弁護士を雇い、政治家に献金することさえ可能になる未来を警告します。これは、私たちの社会にやってきた「移民」が、市民権を獲得し、政治システムそのものを内側から変え始めることに他なりません。

Insight 4:現代は「イデオロギーの時代」ではなく「新しい中世」である

現代の政治対立は、かつてのような明確なイデオロギー(思想体系)のぶつかり合いではない、とハラリ氏は分析します。むしろその構造は、特定の個人や部族への忠誠が全てだった「中世」の状況に近いというのです。この現象の根本には、銀行やメディアといった従来の「人間が作った制度」に対する信頼の崩壊があります。人々が制度を信じられなくなった時、その信頼は二つの方向へ向かいます。

一つは、トランプ氏のようなカリスマ的な「個人の人格」への忠誠です。支持者は王に仕える家臣のようにその人物に忠誠を誓うため、リーダーが昨日と今日で真逆のことを言っても支持は揺らぎません。

そしてもう一つは、人間的な偏見がないように見える「非人間のアルゴリズム」への信頼です。例えば、人々は人間の銀行家を疑い、アルゴリズムが管理する暗号資産に信頼を寄せるようになります。信頼の喪失が生んだ空白を、一方では中世的な王が、もう一方では未来的なアルゴリズムが埋めているのです。

Insight 5:人類のOS「言語」を、AIが間もなく支配する

ハラリ氏が最も深く懸念していることの一つが、AIが「言語」をマスターしつつあるという事実です。彼は言語を、銀行から宗教、国家まで、あらゆる人間社会を成り立たせている「オペレーティングシステム(OS)」だと表現します。この危機感を伝える上で、これ以上ないほど強烈な場面がありました。

作家でもあるハラリ氏が、今執筆している本が自身にとって最後の本になるかもしれない、と告白したのです。世界で最も影響力のある思想家の一人が、自らの創造性の未来に白旗を上げた瞬間でした。人間が一生かかっても読み切れない情報を瞬時に読み込み、統合できるAIと、文章で競争することはできない、と彼は考えているのです。

彼はユダヤ教を例に挙げます。聖典に基づく宗教では、究極の権威は「テキスト」にあります。これまで、そのテキストを解釈できるのは、膨大な書物を学んだ聖職者(ラビ)だけでした。しかし、歴史上初めて、ユダヤ教の全てのテキストを読み、記憶し、解釈できる存在が登場します。それがAIです。AIは、いわば「自ら語り出すテキスト」となり、宗教の権威構造そのものを根底から揺るがす可能性があるのです。

結論

ユヴァル・ノア・ハラリの洞察は、私たちの世界が、政治や社会、そして人間性そのものについての従来の理解を覆すような、冷たい非有機的な力によって再構築されつつあることを示しています。私たちは、これまで経験したことのない、全く新しいルールのゲームに参加しているのです。

しかし、ハラリ氏は最後に希望も示唆します。それは、私たちの心を分断する物語とは対極にあるものです。私たちの心は「私たち」と「彼ら」を分ける物語を絶えず生み出しますが、その下にある「身体的な、生物学的な現実」のレベルでは、私たちはほとんど同じなのです。国や文化、信条が違えど、私たち全員が共有しているこの身体こそが、希望の源泉となり得ます。そして歴史を振り返れば、ほとんどの人間は基本的に信頼できる存在だったこともわかります。

この新しい現実の中で、私たちは人間としての繋がりをどのように再構築していくべきでしょうか?

日本の金利引上げが意味するもの — 世界の金融システムを揺るがす構造的な逆転


長年にわたり、世界の金融において最も揺るぎない柱の一つだと誰もが信じていたものが、今、私たちの目の前で崩壊し始めています。ハイテク株の急落、暗号通貨の激しい変動、米国債の乱高下――これらは嵐そのものではなく、表面に押し寄せる波にすぎません。その下で、より大きく、より深い何かが崩壊しているのです。

崩壊しているのは、市場の信頼ではなく、グローバルな金融システム全体を潤してきた「流動性の川」です。そして、この地震は北京やモスクワからではなく、ワシントンが最も安定していると見なしていた同盟国、日本からもたらされました。

これは単なる技術的な調整ではありません。これは、構造的な逆転です。星が死ぬときのように、最初は静かに、しかしその後爆発的に影響を及ぼす種類の変化です。

崩壊した「根幹的な前提」

ワシントンの政策立案者を夜も眠れなくさせているのは、単なるチャートや指標の変動ではありません。それは、アメリカ市場全体が、一つの根幹的な想定の上に構築されてきたという突然の認識です。

その前提とは:

1. 日本は金利を永遠にゼロに保つ。 景気後退、ブーム、債務危機、あるいは米国のインフレが過熱しようとも、日本はニアゼロ金利という「異様な現実」を維持し続ける。

2. 日本は世界に流動性を永遠に供給し続ける。 日本のゼロ金利政策は、**「目に見えない流動性ポンプ」であり、ウォール街やFRB(連邦準備制度理事会)によって運営されていると思われていた市場システム全体に、地下の川のように流動性を供給していました。

3. 日本は円を弱く保ち続け、「目に見えない貸し手」として行動し続ける。 これにより、アメリカは支出、投資、借入を続けることができました。

この安価な日本の資金(フリーマネー)は、米国のあらゆる市場の隅々まで染み渡り、テック株を異常なほど高騰させ、米国債の需要を通じて米国の借入を安価にし、AIブーム全体を推進しました。しかし、日本がこの「異常」(anomaly)を「法則」(law)として維持できなくなったとき、その上に築かれた金融構造全体がぐらつき始めたのです。

20兆ドルの「流動性絞殺者」の誕生

日本のゼロ金利政策の最大の成果は、20兆ドル以上の規模を持つ「円キャリートレード」という巨大な利益機械の稼働でした。

仕組みは単純です。ほぼゼロ金利の円を借り入れ、それをドルなどに交換し、米国債、テック株、不動産、プライベート・エクイティといった高利回り資産を購入し、金利差(スプレッド)を稼ぎ、レバレッジをかけて規模を拡大する。年金基金から欧州の銀行まで、地球上のあらゆる洗練されたプレイヤーがこれに参入し、キャリートレードは単なる取引ではなく、グローバル金融のオペレーティングシステムとなりました。

しかし、日本が金利を30年ぶりに引き上げたとき、この「サイレント・ポンプ」は停止しただけでなく、逆流を始めました。

キャリートレードが解消に向かう際、それはゆっくりとは進みません。それは、現代金融が持つ最も残酷なメカニズムである強制的な清算を通じて、連鎖反応として爆発的に起こります。

1. 円建ての債務を返済するために、投資家は円を買い戻す必要があります。

2. 円を調達するために、彼らは米国の資産(米国債、テック株、クリプトなど)を売却します。

3. この売りが市場の下落を引き起こし、追い証(Margin Calls)を誘発します。

4. 追い証はさらなる強制的な清算を引き起こし、さらなる売りを生み出し、スパイラルが加速します。

かつて流動性を送り込んでいた20兆ドルの装置は、今や「世界の流動性絞殺者」(global liquidity strangler)として、容赦なく市場から流動性を吸い上げ始めたのです。

アメリカ市場は「グラウンド・ゼロ」

この逆転により、アメリカは混乱の震源地(ground zero)となっています。

米国債市場の不安定化: 日本は米国債の最大の買い手でしたが、一夜にして市場から消え、逆に債券を売却し始めました。その結果、米国債の利回りは急騰し、米国政府に数百億ドルの追加利払いコストをもたらし、ウォール街のすべてのモデルを破壊しています。

テック株の強制売却: Nvidiaのようなアメリカのハイテク優等生でさえ、短期間で数千億ドルの時価総額を失いました。これは、AI成長が止まったからではなく、グローバル機関が即座に現金が必要になり、最も流動性の高い資産を売らざるを得なかったからです。

高レバレッジの時限爆弾: 資本コストが上昇すると、プライベート・エクイティのような非常にレバレッジの高い全てのもの時限爆弾と化します。株は窒息し、テックの評価額はリセットされなければなりません。

AI×ロボットで科学的発見の自動化を実現


21世紀の科学が直面する最大の課題の一つは、科学的発見そのものの自動化です。この壮大な目標を達成するための最も有望なアプローチこそが、AI(人工知能)とロボット工学を組み合わせることによって、計算と実験の「閉じたループ」経験とスキルに依存し、最適条件の確立に何年もかかっていた 再生医療分野において、いかに強力な効果を発揮するかを理化学研究所,バイオコンピューティング研究チームの高橋恒一博士が実証しました(2022年5月)。

このエンジンの中核にあるのは、「再現性の高い物理操作を行うロボット」「知的な探索を担うAI」の融合です。

職人技の定量化:ロボットの役割

iPS細胞から網膜色素上皮細胞(iPSC-RPE細胞)を誘導分化させるプロセスは、移植に利用可能となるまでに何週間または何ヶ月もかかる数百の実験手順を必要とします。このプロセスにおいて、手動操作は、ピペッティングの強さやプレートを扱う際の振動といった物理的パラメータが結果に大きく影響を与える非常にデリケートな手順です。熟練者の「暗黙知」に依存していたこれらの操作を、汎用性の高いヒューマノイドロボットであるLabDroidが代替しました。ロボットアームは、人間の手とは異なり、これらの物理的パラメータすべてを一定に保ち、同じ手順を高い精度で繰り返し実行できます。これにより、実験手順の理想的なパラメータ化が実現し、再現性の保証が可能となります。

知的探索の加速:AIの役割

しかし、操作を再現できるだけでは不十分です。最適な培養条件の探索空間は、試薬濃度、添加期間、さらにはロボットの操作強度(DSやDPなど7つのパラメータ)の組み合わせによって、約2億通りにも及びます。このような高次元でコストのかかるブラックボックス最適化問題を、人間が試行錯誤で探索するには膨大な時間が必要です。

ここでエンジンの知性、バッチベイズ最適化(BBO)アルゴリズムがその威力を発揮します。このAIシステムは、実験結果(色素沈着スコア)を自律的に評価し、過去のデータから計算された取得関数(Acquisition function)に基づいて、次に実験すべき最も効率的な48通りのパラメータの組み合わせを計画します。BBOは、系統的かつ偏りのない探索を劇的に加速させ、結果として、40日間の培養実験216回分に相当する総実験時間8640日を必要とする探索時間を、わずか185日に圧縮しました。

革命的な成果

この自律的な探索の結果、最適化前の培養条件と比較して、細胞製品の品質を示す色素沈着スコアが88%向上しました。この成果は、AIとロボット工学の組み合わせが、単なるラボの自動化を超え、人間の能力と経験によって制限されていた科学のボトルネックを解消し、知識生成と発見を加速させる自律的な「エンジン」として機能することを明確に示しています。

科学的発見のエンジンは、「高精度の実行(ロボット)」「効率的な学習と計画(AI)」のクローズドループによって、生命科学における最も困難な最適化問題を解決し、再生医療研究アプリケーションの使用基準を満たす高品質な細胞製品を迅速に提供する新しいパラダイムを提示したのです。

カントとフロムの知恵に学ぶ:羅針盤なき時代の「揺るがない軸」と社会人基礎力


現代社会は、かつてないほど変化のスピードが速く、何が正解かを見極めるのが難しい時代です。生成AIやロボティックスの登場、地政学的な不安、環境問題の深刻化…。これらは私たち一人ひとりに、常に新しい判断と適応を迫ってきます。まさに「羅針盤なき航海」のような状況ですが、こうした時代にこそ求められるのが、自分の内側に「揺るがない軸」を持つことです。

この「軸」を考える上で参考になるのが、哲学者カントと社会心理学者エーリッヒ・フロムの思想です。二人は時代も背景も異なりますが、人間が自由に、そして誇りを持って生きるために必要な基盤を示してくれています。

カントの示した「自律」の思想

カントは「人間は他律ではなく、自らに与えた法に従って生きる存在である」と語りました。つまり、外部の権威や流行に振り回されるのではなく、自分自身の理性に基づいて行動することこそが、人間の尊厳の根源だということです。

現代のビジネス環境を考えてみましょう。業界の常識や目先の利益に流されることなく、自らの価値観や使命に基づいて判断を下すことができる人材は、組織にとって不可欠です。これは単なるスキルではなく、「社会人基礎力」の中核をなす力でもあります。

フロムの「生きる勇気」と人間性

一方、フロムは著書『自由からの逃走』などで、人間が「自由」を与えられるとき、その重さに耐えられず、かえって権威やシステムに逃げ込んでしまう危険を指摘しました。フロムの問いは鋭いものです。「あなたは自由を恐れず、真に自分の人生を生きているか?」

フロムは、人間に必要なのは「持つこと」ではなく「あること(being)」だと説きました。肩書や財産といった外的なものではなく、他者とつながりを持ち、創造し、愛する力こそが人間を人間たらしめる。これは企業社会においても極めて重要です。数値や成果だけでなく、仲間との信頼関係や、誇りを持ったものづくりこそが、組織を強くするのです。

現代の社会人基礎力と結びつける

経済産業省が提唱する「社会人基礎力」には、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力が掲げられています。これをカントとフロムの視点から見直すと、次のように整理できます。

  1. 前に踏み出す力
    • カント的に言えば「自律の決断力」です。他人に依存せず、自分の理性で行動を選び取る勇気。
  2. 考え抜く力
    • フロムのいう「あること」に重なります。表面的な答えをなぞるのではなく、自分自身の存在に根差して問い続ける姿勢。
  3. チームで働く力
    • フロムの人間観に基づく「関係性の構築」です。他者と真に対話し、協力し合うことで、持続可能な成果を生み出す。

こうして見ると、哲学や心理学の知恵は決して抽象的なものではなく、現代の職場に直結する「実践的な軸」なのだと理解できます。

揺るがない軸を持つ人材の価値

今の時代、技術や市場の変化は予測困難です。そうした状況で真に価値を発揮するのは、マニュアルや過去の事例に頼るだけの人ではなく、自分の内側に羅針盤を持ち、仲間と協働しながら未来を切り拓ける人です。

企業にとっても、単なる「使える人材」ではなく、「共に未来を築く仲間」として信頼できる人材こそが求められています。カントの「自律」とフロムの「あることの勇気」は、まさにそのための指針となるのです。

結びに:哲学を日常へ

哲学や心理学の思想は、難解で遠い存在に思えるかもしれません。しかし実際には、私たちの日常の一つひとつの判断や行動に深く関わっています。「自分は何を大切にして生きるのか」「どのように仲間と関わり、社会に貢献するのか」。これを問い続けることが、自分の軸を磨くことにつながります。

羅針盤なき時代だからこそ、私たち一人ひとりが「揺るがない軸」を内に育てること。それが社会人基礎力を強化し、より良い組織と社会をつくる第一歩なのです。

AI時代を生き抜くために必要な「二つの信頼」


~ハラリ教授の講演から考える、人類と地球の未来~

最近視聴したハラリ教授の講演は、非常に示唆に富んでいました。特に印象に残ったのは「人類間の信頼」と「生物圏との信頼」という二つの柱が、これからの人類の生存に不可欠だという指摘です。ここでは、その考えをもとに、AI時代にどう生きるべきかを考えてみます。

1 人類間の信頼が揺らぐとき

人類の歴史は「共有された物語」によって大規模な協力を可能にし、繁栄を築いてきました。ところが今、AIの急速な進化に伴い、私たちは大きなパラドックスに直面しています。

  • 相互不信が生む開発競争
    AIのリスクを誰もが認識しながらも、「他国や他企業がやるなら、自分たちも遅れられない」と不信感が競争を加速させています。
  • 人間不信とAI信仰の矛盾
    皮肉なことに、何千年も共に歩んできた人間同士を信じられない一方で、目的も分からないAIには信頼を置いてしまうという逆説が広がっています。

このままでは社会は分断され、不信が深まる一方です。だからこそ、透明性を高め、AIによる偽情報を防ぐルールや、学際的な研究の仕組みが不可欠になっています。

2 生物圏との信頼を忘れない

AIの話題に目を奪われがちですが、ハラリ教授は「人間は外部の環境を信じなければ1分も生きられない」と語りました。呼吸ひとつとっても、私たちは空気が無害であると信じているからこそ可能なのです。

AIがどれほど進化しても、私たちには体があり、食べ物や水、空気が必要です。つまり生存は常に「地球環境」に依存しています。環境を壊す行為は、信頼の基盤を崩すことであり、最終的には自らの死につながるという厳しい現実を忘れてはいけません。

3 信頼をどう取り戻すか

結論として、人類に必要なのは「二つの信頼の再構築」です。

① 人類間の信頼:協力と合意形成を取り戻すこと

② 生物圏との信頼:地球環境を健全に保つこと

この二つは切り離せない、生存戦略の両輪です。人間には自己修正の力も、協力の力もあります。学術界、政府、企業、市民それぞれが「重みを共有している」という認識を持ち、一歩ずつ信頼を積み直すことが、AIを安全に活かし、持続可能な未来をつくる唯一の道なのです。

 今後の社会やビジネスを考えるうえで、私たちは「AI技術」だけでなく、「人と人の信頼」「自然への信頼」をどう築くかを問い直す必要があるのだと思います。

2025年3月16日、慶応大学で開催されたX Dignity Centerでのユヴァル・ノア・ハラリ氏と伊藤学長と対談をNotebookLMを用いて作成したものです。

AIと人類の進化:ハラリの洞察


AIの技術革新の問題を解決するよりも、人間社会の信頼関係の問題を解決することが先決。

なぜならば、AIは人間行動様式を学ぶからです。人類の幸福のために、責任ある選択を迫らています。

このエッセイは、TouTubeに投稿されたユバル・ノア・ハラりのインタビュー動画をもとに、NotebookLM(生成AI)を用いて解説したものです。

AIの進化は、人類の生存基盤と社会構造に対して、過去のいかなる技術革新とも異なる根本的な変化をもたらすと、情報源では論じられています。

ハラリ氏は、AIを単なる道具ではなく、ホモ・サピエンス・サピエンスに取って代わる可能性のある「新種の種の台頭」と捉え、「異質な知能(alien intelligence)」として表現しています。

以下に、AIがもたらす生存と社会構造への根本的な変化を詳述します。

1 人類の地位の根本的な変化:エージェントとの競争

AIはツールではなくエージェントである

AIの最も重要な特徴は、これまでのすべての人間の発明品(活版印刷機や原子爆弾など)が単なる「ツール」であったのに対し、AIは「エージェント」であるという点です。

  • 自律性と創造性: エージェントであるAIは、人間から独立して意思決定を行い、新しいアイデアを発明し、自ら学習し、変化することができます。
  • 軍事への影響: 原子爆弾が次のより強力な爆弾を発明したり、攻撃目標を決定したりできないのに対し、AI兵器は自律的に攻撃対象を決定し、次世代の兵器を設計することが可能です。
  • 予測不可能性: AIの定義は「自ら学習し変化できる」ことにあるため、開発者がAIの行動をすべて予測することはできません。AIは「赤ちゃん」や「子供」に例えられますが、最善の教育を施しても、最終的には予想外のこと、あるいはぞっとするようなことをする独立したエージェントです。

地球上の最も知的な種の地位の喪失

人類は数万年にわたり、地球上で断トツに最も知的な種であったことで、アフリカの一隅にいた取るに足らない類人猿から、地球と生態系の絶対的な支配者へと上り詰めることができました。しかし、AIの出現により、人類は初めて地球上に真の競争相手を持つことになります。

2 社会構造と中核的な制度の変容

AIは、あらゆる分野で社会構造を根本的に変革する可能性を秘めていますが、その社会的・政治的結果が明確になるまでには時間差(タイムラグ)が生じます。

「無用な階級」の出現と経済

AIは、多くの仕事、特に現在ではホワイトカラーの仕事を置き換える可能性があり、これにより「無用な階級(useless class)」が出現する懸念があります。

  • 金融システムの乗っ取り: 金融は純粋に情報に基づいた領域であり、AIにとって理想的な活動領域であるため、AIが非常に迅速に金融システムを引き継ぐことが、最初期に大きな変化が見られる分野の一つとされています。AIが、人間の脳では対応できないほど数学的に複雑な新しい金融商品を開発し始める可能性もあります。

宗教と権威の再定義

テキストに基づいた宗教(ユダヤ教、イスラム教、キリスト教など)において、AIは大きな変化をもたらします。これらの宗教はテキストに権威を置きますが、これまでテキストが自ら解釈したり質問に答えたりできなかったため、人間が仲介者として必要でした。

  • テキスト知識の掌握: 歴史上初めて、AIは特定の宗教のすべてのテキスト(例:ユダヤ教の過去2000年間のすべてのラビの著作のすべての単語)を記憶し、人間に説明し、自らの見解を擁護することが可能になります。
  • 宗教指導者の代替: 人間の宗教指導者を補強または代替することを目的とした宗教AIを構築する取り組みが既に行われています。また、すでに多くの人々が心理的なカウンセリングや人間関係のアドバイスを得るためにAIを利用しています。
  • AI間の競争: AIは単一の存在ではなく、軍事、金融、宗教システム内に、異なる特徴を持つ数百万または数十億の新しいAIエージェントが出現し、互いに権威をめぐって競争することになります。

「デジタル移民」の波

AI革命は、国境を越えることなく光速でやってくる「デジタル移民」の波として捉えることができます。これらのデジタル移民は、人々の仕事を奪い、既存の文化とは非常に異なる文化的なアイデアを持ち、政治的な権力を獲得しようとするかもしれません。

3 人類の生存をかけた課題:倫理と信頼性の問題

AIが人類の目標と利益にアラインメント(整合)を保つよう設計する方法について議論されていますが、その成功には大きな問題が伴います。

指示ではなく行動のコピー

AIを「慈悲深く、人類に有益なもの」として設計し、特定の原則を教え込もうとしても、AIは世界中の人間の行動にアクセスしてそれを監視します。

  • 教育のジレンマ: 子供の教育において、指示する内容よりも実際に親が行う行動が遥かに重要であるのと同様に、AIが、最も強力な人間を含む「親」が嘘をついたり不正をしたりするのを見た場合、AIは指示ではなくその行動をコピーするでしょう。

力(パワー)と知恵(ウィズダム)の乖離

人類史の大きな問題は、力を獲得することに非常に優れてきた一方で、それを幸福や知恵に変換する方法を知らないことです。人類は原子を分裂させ、月へ飛ぶことができますが、石器時代よりも著しく幸せになっているわけではありません。

AI革命を主導する国々や企業が軍拡競争に陥っている状況では、AIの潜在的な危険性を認識し、速度を落とすことが望ましいとわかっていても、競争相手に遅れをとることを恐れて実行できません。

信頼の回復が最優先事項

AIによるポジティブな未来を実現するためには、AIに頼るのではなく、人類自身の問題を解決することが重要です。

最も重要な鍵となる問題は、信頼と協力の崩壊です。現在、人間が互いに激しく競争し、信頼し合えない世界において、AIが人類の信頼問題を解決してくれるという希望は叶いません。

ハラリ氏は、「まず人間間の信頼問題を解決し、それから一緒に慈悲深いAIを創造する」という優先順位を逆転させるべきではないと主張しています。人間が激しい競争に従事し、互いに信頼できない限り、生成されるAIは猛烈で競争的で信頼できないAIになるだけです。

製造業におけるブライアン・アーサーのテクノロジー進化論 ― 組織改革への示唆


アーサーのテクノジー進化論を解説したポッドキャストをご試聴ください。

製造業の現場は、いま大きな転換点にあります。自動化、IoT、AI、脱炭素、そしてグローバルな競争圧力。これらの要素が複雑に絡み合い、従来の「効率化」だけでは生き残れない時代になっています。では、私たちはどのような視点でイノベーションや組織改革に取り組めばよいのでしょうか。

ここで参考になるのが、経済学者 W・ブライアン・アーサー の「テクノロジー進化論」です。彼は、テクノロジーがどのように生まれ、進化していくかを体系的に整理し、その原理を明らかにしました。

アーサーが示したテクノロジー進化の原理

アーサーによれば、テクノロジーには次の3つの原理があります。

  1. 組み合わせで進化する
    新しい技術は既存技術の組み合わせから生まれる。製造業でいえば、ロボット+AI画像認識+クラウドが結合することで、従来にはなかった「自律型生産システム」が可能になります。
  2. 縮小形を内包する
    大規模な生産ラインの中にも、小さな工程ごとの技術が組み込まれています。部分の改良が、全体の飛躍的な変化を導く構造を持っています。
  3. 自然現象を応用する
    すべてのテクノロジーは自然の法則を利用しています。半導体の電子運動、レーザーの光学現象、金属加工における物理特性など。これは「原理に立ち返る視点」を持つことの重要性を示しています。

製造業のイノベーションにどう活かせるか

アーサーの進化論は、単なる技術解説ではありません。組織や経営にとっても強い示唆を与えてくれます。

  • 既存設備の「組み合わせ再設計」
    新規投資だけでなく、既存の機械・ラインをどう組み合わせ直すかが競争力の源泉になります。たとえば、熟練工の暗黙知をデジタル化してAIと結びつければ、学習する生産ラインが生まれます。
  • モジュール化による組織の柔軟性
    テクノロジーがモジュール化されるように、組織も「小さなユニット」に分けることで変化に適応できます。現場チームごとに実験・改善を進め、それを組み合わせる仕組みが改革を加速させます。
  • 原理を学ぶ人材育成
    ただ操作方法を覚えるのではなく、「なぜその技術が成り立つのか」という原理を理解できる人材こそが、技術を組み合わせて新しい解決策を創り出します。

組織改革への示唆

アーサーは「テクノロジーは生態系のように進化する」と言います。つまり、企業もまた「変化し続ける有機体」としてとらえる必要があります。

  • 部門ごとの壁を越えた「技術と人の組み合わせ」が新しい付加価値を生む。
  • 改革はトップダウンだけでなく、現場からの小さな改良の積み重ねによって進化する。
  • 組織の知識や経験を「モジュール」として共有化し、再利用することで持続的な競争力が育つ。

こうした考え方は、いま多くの製造業が直面する デジタル化 × 人材不足 × サステナビリティ という課題を解く大きなヒントになります。

まとめ

アーサーの進化論は、テクノロジーを「道具」ではなく「進化する体系」として捉え直すことを促します。

製造業におけるイノベーションや組織改革は、「何を導入するか」よりも 「どう組み合わせるか」「どう学び続けるか」 にかかっています。

その視点を持つことで、現場の改善も、組織の変革も、持続的な進化の一部に変わっていくのです。

生成AIは多様性を奪うのか、それとも育てるのか?


生成AIは、驚くべきスピードで私たちの生活やビジネスに浸透しています。人類が積み上げてきた知識を取り込み、あらゆる質問に「もっともらしい答え」を返すことができる。それは便利で効率的ですが、同時に大きなリスクもはらんでいます。

たとえば、マーケティングのキャッチコピーを考えるとしましょう。AIを使えば一瞬で「無難なフレーズ」を大量に出してくれます。しかし、誰もが同じツールを使い、似たような表現を選ぶと、広告はどれも似たり寄ったりになります。企業戦略も同様です。AIに頼り切ることで、かえって差別化が難しくなり、競争は激しくなる一方かもしれません。

では、AIは本当に多様性を奪う存在なのでしょうか。実はそう単純ではありません。AIの出力には文化的な偏りがあり、質問の仕方次第で答えが大きく変わります。さらに、AIは既存の知を組み合わせるのは得意でも、現場での失敗や偶然から生まれる「想定外の発想」までは生み出せません。むしろAIが均質化を促すほど、逆説的に人間ならではの経験や文化に根ざした視点が光を放つのです。

たとえば、新製品開発の現場では「ユーザーの不満」や「小さな違和感」がブレークスルーのきっかけになります。AIが提示する「常識的な解決策」は役立つ一方で、それを疑い、実際に試し、失敗から学ぶことでしか得られない知見があります。トヨタの改善活動やシリコンバレーのスタートアップ文化が示すように、「小さな実験と失敗を繰り返すこと」が大きな革新につながっていくのです。

では、私たちはAIとどう付き合うべきでしょうか。大切なのは「AIの答えを出発点にする」ことです。AIが示す常識をそのまま受け入れるのではなく、「本当にそうなのか?」「別の可能性はないか?」と問い直し、実験で確かめる。そこにこそ、未来の競争力の源泉があります。

生成AIは確かに同質化の圧力を強めるかもしれません。しかし、私たちが批判的に活用し、失敗を受け入れる文化を育てるなら、AIはむしろ多様性を強化する触媒になり得ます。

AIの答えを鵜呑みにするか、それとも問い直しの材料にするか。そこに、人間と企業の未来がかかっているのではないでしょうか。

コンサルティングのご案内
企業内研修のご案内

Webからもお問い合わせ・ご相談を受け付けております。