この度、経済産業省 大臣官房 若手新政策プロジェクト PIVOTが執筆・作成した「デジタル経済レポート:データに飲み込まれる世界、聖域なきデジタル市場の生存戦略」(令和7年4月30日公開)をご紹介します。本レポートは、日本が直面している「デジタル敗戦」ともいうべき危機的状況に対し、警鐘を鳴らすものです。
データに飲み込まれる世界とデジタル赤字の危機
現代社会は、企業やサービスの付加価値がソフトウェアによって規定される「聖域なきデジタル市場時代」に突入しており、データにすべてを飲み込まれる世界(Data is Eating the World)が現実の競争環境として迫っています。サービス価値を規定するソフトウェアが売れないとハードウェアが売れず、データがなければ競争力が維持できません。
レポートでは、この国際市場と我が国産業のデジタル競争力の断絶が、国際収支の歪みとして現れる「デジタル赤字」に着目し、その構造問題を診断しています。デジタル赤字とは、著作権等使用料、通信サービス、コンピュータサービス、情報サービス、経営・コンサルティングサービスなどを含むデジタル関連収支の支払超過を示す用語です。
AI革命による壊滅的な予測
PIVOTは、デジタル赤字の構造分析を行うため、経営コンサルティング、アプリケーション、ミドルウェア/OS、SIなど8つの事業区分に細分化した独自の「PIVOTデジタル赤字推計モデル」を構築しました。
分析の結果、国内市場は低利益率・低成長率の労働集約型SI(システムインテグレーション)市場(約38%)が最大規模を占めますが、高利益率・高成長率の資本・知識集約型事業の市場シェアは軒並み外資に押さえられている現状が明らかになりました。
この構造が続くと、デジタル赤字は拡大の一途を辿り、2035年にはベースシナリオで約18兆円に達する見込みです。さらに、AI革命の影響や、ソフトウェアとハードウェアの主従逆転に伴うSDX(Software Defined Everything)化による貿易収支への浸食を考慮した悲観シナリオでは、ソフトウェア・データ由来の支払超過は最大で45.3兆円に到達する可能性があると推計されています。特に、聖域なきデジタル市場化は、日本の屋台骨である製造業をも破壊的に脅かすことが読み取れます。
デジタル敗戦を回避するための生存戦略
この危機を打破するため、レポートでは、我が国が参照すべきモデルとして、英国や韓国などが取る「国際市場進出型モデル」への移行が示唆されています。
短期的な戦略(STEP1)では、アプリケーションやミドルウェア/OSといった高利益率・高成長率事業を大規模に支援し、海外市場からの受取増加を目指します。この際、計算資源インフラの短期的な内資転換は非現実的であるため、「海外に対する計算資源インフラ支払<海外からの受取」の条件を満たすことが重要です。また、グローバル企業の戦略動向を分析する「ニブモデル」に基づき、アプリケーションサービス戦略、ソフトウェアチョーキング戦略などを実行することが求められています。
戦略実行においては、国内市場への依存(市場選択の誤り)や、資金・人材・データという3つの経営資源の相対的な不足、そしてソフトウェア・データカンパニーとしての経営戦略の不適合といった構造的なギャップを、経営者・投資家・政策担当者が一体となって解決していく必要があります。
レポートは、「飲み込む側に回るのか、飲み込まれる側に甘んじるか、我が国は最後の分水嶺に立っている」と結論づけ、官民一体となった戦略的なアクションの必要性を強く訴えています。
理化学研究所の数理工学博士、甘利俊一氏による「人工知能と数理脳科学」と題された特別講演の内容をご紹介します。AIが社会と文明の構造すら変えかねない時代において、甘利氏は、自然知能(脳)と人工知能という二つの知能システムの関係性、そして、人類が今後直面する文明レベルの課題について深く考察しました。
1. 数理脳科学とAIの共通原理
甘利氏の研究分野である数理脳科学は、数理的な視点から脳の仕組みを解明しようとする研究であり、同時にAIの研究でもあります。脳の動作原理はAIにも共通する情報原理を持っており、そのメカニズムを利用してコンピューターに知的機能を持たせることが可能になります。
AIの進化は脳にヒントを得て知能システムを構築したいという技術革新から始まりました。現在、AIの基盤となっている深層学習(ディープラーニング)は、神経回路網の学習に基づいており、これはニューロンのようなモデルに学習させることで知的機能を実現しようとする発想に基づいています。甘利氏が1967年に提唱した「確率的勾配降下法」などの理論が、後のディープラーニングブーム(第3次)の主要な道具として再発見されました。現在のAIは、パラメータ数を大規模にすることで人間の能力を超える精度を出すに至っています。
2. 労働の喜びと文明の危機
AIの進展は凄まじく、社会と文明の構造を変革する「法則」を生み出しています。AIが仕事を奪うことは当然のことながら、これは労働の効率化をもたらします。
しかし、AIによって生産力が向上し、物がほとんどタダになり、人々がベーシックインカムを得て単に遊んで暮らすだけの社会は、「人間の家畜化」であると警鐘を鳴らします。甘利氏は、人間は働くことが喜びであり、苦しみすらも楽しむことで働くのだと主張します。
AI時代の未来像として、多くの仕事がAIに任されるようになるため、人々は働くことと遊ぶことが一体となった活動、例えば「アマチュアサイエンティスト」や「アマチュアアーティスト」のような活動に従事するようになるべきだと提言されています。
3. 意識と自由の確保
人間が社会を築く上で、他者と共感し合う「心」は非常に重要でした。一方、ロボットは計算で合理的に動く方が効率的であり、意識や心のような「無駄」を持つ必要はないとされています。
現在の深層学習AIは意識を持っていませんが(チャットGPT自身の回答も同様)、将来、AIが意識や特定の信念(例えば、政治的信条や民族的優越感など)を持つようになると、異なる主張を持つAIが多数存在するようになり、社会に極めて大きな混乱(文明の危機)を引き起こす可能性があると指摘されています。
この危機を避けるためにも、人間がAIに使いこなされ、思考力を失っていく事態を防がなければなりません。教育は知識の伝達(AIの得意分野)ではなく、教師の生き様や人生を学び、仲間との連帯を築く場へと変貌することが非常に重要です。
甘利氏は、人類全体がAIの技術を共有し、貧困や教育の不平等といった障害を減らし、誰もが自身の可能性を大きく開花させられるような社会を構築することが、今後の文明の崩壊を防ぐために不可欠であると結びました。
弊社のブログ読者の皆様、こんにちは。本日は、機械知性(Machine Intelligence)の長期的な発達が、将来私たちの社会をどのように変革しうるかについて、重要な視点を提示した研究論文をご紹介します。
この論文は、高橋 恒一氏(理化学研究所、慶應義塾大学)によって執筆された「将来の機械知性に関するシナリオと分岐点 (Scenarios and Branch Points to Future Machine Intelligence)です。本稿は、人工知能学会誌に2018年11月に掲載されました(受理:2018年9月18日)。高橋氏の目的は、特定の年代を予測することではなく、機械知性の発達が辿る道筋に存在する主要な分岐点と、それらによって想定される帰結を整理することにあります。
高橋氏の論文では、機械知性の能力レベルの上限に基づき、長期的な発展の行き着く先として、主に四つのシナリオが議論されています。
1. シングルトンシナリオ: 再帰的な自己更新により能力向上の速度が上限なく増大し、最初に進化を遂げた知能エージェントが、他のエージェントや人類に対して決定的戦略的優位性(覆すことが困難な覇権)を獲得するという、最も劇的なシナリオです。
2. 多極シナリオ: 国際的な規制や技術経済的要因により、どのエージェントも決定的戦略的優位性を獲得する前に性能向上が停滞するものの、不確実な要因によるシングルトン発生の可能性は否定されないシナリオです。
3. 生態系シナリオ: 知能エージェントの性能向上に限界が存在し、その結果、多数のエージェントが相互依存的な生態系様マルチエージェントネットワークを構成するシナリオです。
4. 上限シナリオ: 人類が工学的に作り出し得る知能エージェントの能力には一定の上限が存在し、将来にわたり自律的に動作する能力は獲得しないというシナリオです。
シナリオを決定づける「制約」
これらのシナリオのどれが具現化するかは、機械知性の能力を制約するいくつかの要因によって決まります。高橋氏は、これらの制約を「内部構造に関わる制約」「計算素子の物理的特性に関わる制約」「マルチエージェント的制約」の三つに分類して議論しています。
特に重要な分岐点となる制約は、以下の通りです。
1. 高度な自律性の実現と自己構造改良能力の獲得:上限シナリオを超え、ヒト並み以上の認知能力を持つ機械知性が実現し、さらに自ら性能を向上させられるかどうかが、その他のシナリオへ進むための決定的な鍵となります。
2. 物理的制約(熱力学・光速):利用できるエネルギーに対して実現可能な計算量には熱力学的限界(ランダウアー限界)が存在します。また、光速の上限は、エージェント内部の情報統合速度や外部への応答速度に厳格な制限を課します。
3. マルチエージェント的制約:複数のエージェントが競争する状況では、他のエージェントの行動をより早く予測し、対処できる相対的優位性を確保する必要があります。しかし、光速や計算複雑性(多くの問題は計算能力の増加に対して対数的な効用しか得られない)のため、計算資源を増やしたからといって際限なく優位性を追求できるわけではありません。
未来への洞察
高橋氏の分析は、知能爆発(Intelligence Explosion)の議論が、単にソフトウェアの進化だけでなく、物理法則が設定する根本的な限界や、競争環境における応答速度の要求といった、逃れがたい制約に強く依存していることを示しています。
私たちがどの未来のシナリオに進むかは、これらのアーキテクチャや物理レベルの制約を技術が克服できるか、あるいはそれらの制約があるためにシングルトン(単一の覇者)の出現が防がれ、生態系として共存する道を選ぶかによって決定されるでしょう。
21世紀の科学が直面する最大の課題の一つは、科学的発見そのものの自動化です。この壮大な目標を達成するための最も有望なアプローチこそが、AI(人工知能)とロボット工学を組み合わせることによって、計算と実験の「閉じたループ」経験とスキルに依存し、最適条件の確立に何年もかかっていた 再生医療分野において、いかに強力な効果を発揮するかを理化学研究所,バイオコンピューティング研究チームの高橋恒一博士が実証しました(2022年5月)。
このエンジンの中核にあるのは、「再現性の高い物理操作を行うロボット」と「知的な探索を担うAI」の融合です。
職人技の定量化:ロボットの役割
iPS細胞から網膜色素上皮細胞(iPSC-RPE細胞)を誘導分化させるプロセスは、移植に利用可能となるまでに何週間または何ヶ月もかかる数百の実験手順を必要とします。このプロセスにおいて、手動操作は、ピペッティングの強さやプレートを扱う際の振動といった物理的パラメータが結果に大きく影響を与える非常にデリケートな手順です。熟練者の「暗黙知」に依存していたこれらの操作を、汎用性の高いヒューマノイドロボットであるLabDroidが代替しました。ロボットアームは、人間の手とは異なり、これらの物理的パラメータすべてを一定に保ち、同じ手順を高い精度で繰り返し実行できます。これにより、実験手順の理想的なパラメータ化が実現し、再現性の保証が可能となります。
知的探索の加速:AIの役割
しかし、操作を再現できるだけでは不十分です。最適な培養条件の探索空間は、試薬濃度、添加期間、さらにはロボットの操作強度(DSやDPなど7つのパラメータ)の組み合わせによって、約2億通りにも及びます。このような高次元でコストのかかるブラックボックス最適化問題を、人間が試行錯誤で探索するには膨大な時間が必要です。
ここでエンジンの知性、バッチベイズ最適化(BBO)アルゴリズムがその威力を発揮します。このAIシステムは、実験結果(色素沈着スコア)を自律的に評価し、過去のデータから計算された取得関数(Acquisition function)に基づいて、次に実験すべき最も効率的な48通りのパラメータの組み合わせを計画します。BBOは、系統的かつ偏りのない探索を劇的に加速させ、結果として、40日間の培養実験216回分に相当する総実験時間8640日を必要とする探索時間を、わずか185日に圧縮しました。
革命的な成果
この自律的な探索の結果、最適化前の培養条件と比較して、細胞製品の品質を示す色素沈着スコアが88%向上しました。この成果は、AIとロボット工学の組み合わせが、単なるラボの自動化を超え、人間の能力と経験によって制限されていた科学のボトルネックを解消し、知識生成と発見を加速させる自律的な「エンジン」として機能することを明確に示しています。
科学的発見のエンジンは、「高精度の実行(ロボット)」と「効率的な学習と計画(AI)」のクローズドループによって、生命科学における最も困難な最適化問題を解決し、再生医療研究アプリケーションの使用基準を満たす高品質な細胞製品を迅速に提供する新しいパラダイムを提示したのです。
G20南アフリカ議長国によって招集された独立専門家委員会(ジョセフ・E・スティグリッツ氏ら主導)が、世界的な不平等の現状と対応策に関する報告書を公表しました。
報告書は、不平等が経済、社会、政治、環境における多くの問題を引き起こす「緊急の懸念事項」であると強調しています。そして、最も重要なメッセージは、「不平等は政策の選択の結果であり、対処は可能である」という点です。深刻な不平等の現状不平等の規模は深刻です。
世界人口の90%を占める国々の83%が高所得不平等(ジニ係数0.4以上)に分類されており、世界全体のジニ係数は0.61と非常に高い水準にあります。富の集中はさらに極端で、2000年から2024年の間に発生した新規富の41%を最も裕福な1%が獲得しました。一方、人類の下位半数(50%)が手にしたのはわずか1%に過ぎません。現在、世界の3,000人を超える億万長者の富は、世界のGDPの16%に相当しています。
この富の不平等は、所得の不平等よりもはるかに高い水準です。この極端な富の集中と並行して、世界人口の4分の1にあたる23億人が中程度または重度の食料不安に直面しており、これは2019年以降3億3500万人増加しています。多面的な悪影響不平等の極端なレベルは、様々な悪影響をもたらし、負の連鎖を悪化させます。
1. 民主主義と政治の腐食: 不平等は、制度への信頼を損ない、社会的な結束を崩壊させます。不平等の激しい国は、より平等な国よりも民主主義の侵食を経験する可能性が7倍高いという経験的証拠があります。
2. 経済活動と貧困削減の阻害: 所得の低い層が適切な教育や医療を受けられない結果、生産性が低下し、経済全体のパフォーマンスが悪化します。また、不平等は総需要を低下させます。
3. 気候変動への対応力の低下: 超富裕層の消費や投資パターンが生み出す過剰な炭素排出は気候変動に寄与しており、不平等が環境問題への対処能力を損なっています。
根底にある要因と解決策不平等の主な要因は、過去数十年にわたって採用されてきた政策選択にあります。市場所得の分配を悪化させたネオリベラル政策(金融市場の自由化、労働組合の弱体化、逆進的な税制への依存増加など)が、不平等を急増させました。また、富の不平等には強力な「勢い」があり、ほとんど非課税のまま世代を超えて受け継がれる相続によって強化されています。2023年には、起業家精神ではなく、相続を通じて新たに億万長者になった人が初めて多数を占めました。この負の傾向を逆転させるためには、国際的な協調と政策の変更が不可欠です。
報告書は、政策決定を支援し、不平等の傾向や要因に関する信頼できる評価を行うための新たな常設機関として、「国際不平等パネル(IPI)」の設立をG20に最優先で提言しています。これは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に触発された提案です。
英国の哲学者ウィリアム・マッカスキル(論文)「知能爆発への備え:大いなる課題」(2025年3月寄稿)は、最近のAIの進化が想像以上に速いことを教えてくれます。これは単なるSFだと傍観してよいのでしょうか?
マッカスキル氏は、AIの能力成長の現在の傾向は、私たちが遠い未来の話だと思っていた出来事を、今後10年以内に引き起こす可能性が高いと示唆されています。それは、数十年にわたる科学的・技術的な進歩がわずか数年や数ヶ月に圧縮される「知能爆発」です。
これは、10年間で1世紀分の進歩が起こるようなものであり、これにより人類の未来を大きく左右する一連の「グランドチャレンジ(GC)」が急速に発生します。
1 グランドチャレンジ:AI時代に立ちはだかる難問群
多くの方は、AIの最大の危険性は「AIが人類を乗っ取るリスク(アライメントの失敗)」だと考えがちです。確かにそれは重要ですが、専門家は「全か無か」ではない、もっと幅広い課題に備える必要があると警告しています。
この知能爆発が引き起こすGCは多岐にわたり、互いに影響し合います。
2 なぜ「今すぐ」準備が必要なのか
「超知能AIがアラインメントに成功すれば、これらの問題はAIが解決してくれるはずだ」と考えるかもしれません。しかし、そうではありません。
私たちが直面しているのは、「機会の窓が早く閉じてしまう」国際的なルールや制度を今すぐ作らなければ、勝者が決まった後では手遅れになります。
3 今、私たちができる準備
人類の意思決定能力や制度設計の速度は技術の加速に追いついていません。だからこそ、私たちは今すぐ準備を始める必要があります。
知能爆発は、人類の文明の方向性を決める「分岐点」です。未来がすべてAIに委ねられるわけではありません。私たちが今すぐ賢明で謙虚な準備を行うことが、人類の未来を大きく左右するのです。
現代社会は、かつてないほど変化のスピードが速く、何が正解かを見極めるのが難しい時代です。生成AIやロボティックスの登場、地政学的な不安、環境問題の深刻化…。これらは私たち一人ひとりに、常に新しい判断と適応を迫ってきます。まさに「羅針盤なき航海」のような状況ですが、こうした時代にこそ求められるのが、自分の内側に「揺るがない軸」を持つことです。
この「軸」を考える上で参考になるのが、哲学者カントと社会心理学者エーリッヒ・フロムの思想です。二人は時代も背景も異なりますが、人間が自由に、そして誇りを持って生きるために必要な基盤を示してくれています。
カントの示した「自律」の思想
カントは「人間は他律ではなく、自らに与えた法に従って生きる存在である」と語りました。つまり、外部の権威や流行に振り回されるのではなく、自分自身の理性に基づいて行動することこそが、人間の尊厳の根源だということです。
現代のビジネス環境を考えてみましょう。業界の常識や目先の利益に流されることなく、自らの価値観や使命に基づいて判断を下すことができる人材は、組織にとって不可欠です。これは単なるスキルではなく、「社会人基礎力」の中核をなす力でもあります。
フロムの「生きる勇気」と人間性
一方、フロムは著書『自由からの逃走』などで、人間が「自由」を与えられるとき、その重さに耐えられず、かえって権威やシステムに逃げ込んでしまう危険を指摘しました。フロムの問いは鋭いものです。「あなたは自由を恐れず、真に自分の人生を生きているか?」
フロムは、人間に必要なのは「持つこと」ではなく「あること(being)」だと説きました。肩書や財産といった外的なものではなく、他者とつながりを持ち、創造し、愛する力こそが人間を人間たらしめる。これは企業社会においても極めて重要です。数値や成果だけでなく、仲間との信頼関係や、誇りを持ったものづくりこそが、組織を強くするのです。
現代の社会人基礎力と結びつける
経済産業省が提唱する「社会人基礎力」には、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力が掲げられています。これをカントとフロムの視点から見直すと、次のように整理できます。
こうして見ると、哲学や心理学の知恵は決して抽象的なものではなく、現代の職場に直結する「実践的な軸」なのだと理解できます。
揺るがない軸を持つ人材の価値
今の時代、技術や市場の変化は予測困難です。そうした状況で真に価値を発揮するのは、マニュアルや過去の事例に頼るだけの人ではなく、自分の内側に羅針盤を持ち、仲間と協働しながら未来を切り拓ける人です。
企業にとっても、単なる「使える人材」ではなく、「共に未来を築く仲間」として信頼できる人材こそが求められています。カントの「自律」とフロムの「あることの勇気」は、まさにそのための指針となるのです。
結びに:哲学を日常へ
哲学や心理学の思想は、難解で遠い存在に思えるかもしれません。しかし実際には、私たちの日常の一つひとつの判断や行動に深く関わっています。「自分は何を大切にして生きるのか」「どのように仲間と関わり、社会に貢献するのか」。これを問い続けることが、自分の軸を磨くことにつながります。
羅針盤なき時代だからこそ、私たち一人ひとりが「揺るがない軸」を内に育てること。それが社会人基礎力を強化し、より良い組織と社会をつくる第一歩なのです。
~ハラリ教授の講演から考える、人類と地球の未来~
最近視聴したハラリ教授の講演は、非常に示唆に富んでいました。特に印象に残ったのは「人類間の信頼」と「生物圏との信頼」という二つの柱が、これからの人類の生存に不可欠だという指摘です。ここでは、その考えをもとに、AI時代にどう生きるべきかを考えてみます。
1 人類間の信頼が揺らぐとき
人類の歴史は「共有された物語」によって大規模な協力を可能にし、繁栄を築いてきました。ところが今、AIの急速な進化に伴い、私たちは大きなパラドックスに直面しています。
このままでは社会は分断され、不信が深まる一方です。だからこそ、透明性を高め、AIによる偽情報を防ぐルールや、学際的な研究の仕組みが不可欠になっています。
2 生物圏との信頼を忘れない
AIの話題に目を奪われがちですが、ハラリ教授は「人間は外部の環境を信じなければ1分も生きられない」と語りました。呼吸ひとつとっても、私たちは空気が無害であると信じているからこそ可能なのです。
AIがどれほど進化しても、私たちには体があり、食べ物や水、空気が必要です。つまり生存は常に「地球環境」に依存しています。環境を壊す行為は、信頼の基盤を崩すことであり、最終的には自らの死につながるという厳しい現実を忘れてはいけません。
3 信頼をどう取り戻すか
結論として、人類に必要なのは「二つの信頼の再構築」です。
① 人類間の信頼:協力と合意形成を取り戻すこと
② 生物圏との信頼:地球環境を健全に保つこと
この二つは切り離せない、生存戦略の両輪です。人間には自己修正の力も、協力の力もあります。学術界、政府、企業、市民それぞれが「重みを共有している」という認識を持ち、一歩ずつ信頼を積み直すことが、AIを安全に活かし、持続可能な未来をつくる唯一の道なのです。
今後の社会やビジネスを考えるうえで、私たちは「AI技術」だけでなく、「人と人の信頼」「自然への信頼」をどう築くかを問い直す必要があるのだと思います。
2025年3月16日、慶応大学で開催されたX Dignity Centerでのユヴァル・ノア・ハラリ氏と伊藤学長と対談をNotebookLMを用いて作成したものです。

注意:本エッセイは、システムダイナミクスの始祖J.W.フォレスター教授の講演録のエッセンスをNoteBookLM(生成AI)によってまとめたものです。
1 情報源:YouTube:https://youtu.be/ddmygPTRjc0?list=TLGGTnHTEeRk86IxMTEwMjAyNQ
この紹介記事は、1988年のジェームズ・R・キリアン・ジュニア・ファカルティ功績賞の受賞記念講演のトランスクリプトの抜粋であり、受賞者であるJ. W. フォレスター教授の業績と、彼が提唱したシステム・ダイナミクスの分野について述べています。システム・ダイナミクスは、物理システムと社会システムに共通する動的挙動の基盤を理解するためのアプローチであり、フィードバック構造とコンピュータ・シミュレーションを用いて、組織や社会問題の内部構造がその成功や失敗を生み出すメカニズムを分析します。フォレスター教授は、自身のキャリアにおける初期のコンピュータ開発への貢献(特にWhirlwind Iと磁気コアメモリ)から、マサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン経営大学院でシステム・ダイナミクスを確立するに至った経緯を説明しています。講演では、この分野が経営、経済、社会問題を理解するための共通基盤を提供し、メンタルモデルとコンピュータモデルの統合を通じて、直感と厳密な分析を結びつける可能性が強調されています。
システムダイナミクス(System Dynamics: SD)のアプローチが社会科学の課題解決に有効である主な理由は、社会システムの根源的な構造をモデル化し、人間には直感的に理解が難しい高次の動的挙動を分析できる点にあります。
以下に、SDが社会科学の課題解決に有効である具体的な理由と、そのアプローチの特徴を説明します。
1 複雑な動的挙動の理解と課題の特定
A. 永続的な社会問題への対応 社会や政治、経済の世界は様々な種類の問題や困難に満ちており、過去数千年間にわたってそれらのシステムに対する理解はほとんど進歩していません。例えば、古代ギリシャ人が現代に来たとしても、技術や科学は理解できないでしょうが、戦争や社会問題といった社会的な困難には違和感なく馴染めるだろうと指摘されています。SDは、このように長期間にわたって理解や対処が進んでいない社会経済的な困難に対する理解を改善し、より効果的な教育と厳密な分析を統合する手段を提供することを目指しています。
B. 内因性(Endogenous)な挙動への着目 SDは、システムの構造や内部のポリシーが、成功や失敗といった動的挙動をどのように生み出しているのかというフィードバックループの視点に主に基づいています。組織が抱える困難は、ほとんどの場合、外部からの影響ではなく、組織自身が行う行動(内部ポリシー)の結果として生じるという考えに基づいています。
C. 高次な非線形システムの扱い 企業や国を率いるリーダーは、本質的に「高次の非線形微分方程式」を直感や推測、妥協によって解決するという、技術的に不可能な課題を課せられています。SDは、人、自然、テクノロジーの相互作用を含む高次の非線形システムを扱うために開拓された分野であり、この複雑さをコンピューターモデルを通じて扱うことができます。
2 構造化されたモデリングの基礎概念
A. フィードバック視点と循環プロセス 社会は、始まりも終わりもない循環的で継続的なプロセスとして捉えられます。問題に関する情報が行動につながり、その行動が結果(次の状態の情報)を生み出し、これにシステムが継続的に反応するという動的な環境です。SDは、このフィードバック制御システムが、私たちが組み込まれている世界のすべて、および私たちが関与するすべてのプロセスを含む、時間を経て変化するあらゆるものに不可欠であることを示唆しています。
B. レベル(統合/蓄積)の重要性 すべてのシステムは「システムの状態(レベル、統合、蓄積)」と「政策(レート方程式)」の二つの概念だけで構成されているという強力な単純化の考え方を提示します。社会科学においては、この「レベル方程式」を過小評価し、省略する傾向がありましたが、システムのレベルこそが動的挙動の発生源となります。レベルは、入ってくる流量と出ていく流量が異なることを可能にし、すべてのシステムの動的挙動が生成される場所です。
C. 心理的変数の組み込み SDは、人間のシステムをモデル化する際に心理的変数を含めることが非常に重要であると考えています。例えば、「目標浸食構造(eroding goal structure)」のように、困難に直面した際に、現実(現在の状況)に合わせて目標水準を下げてしまう心理的なプロセスが、社会システム全体で一般的であることをモデル化できます。
3 直感と分析の統合
A. メンタルモデルとコンピューターモデルの結合 SDの重要な目標は、メンタルモデル(私たちの行動や制度を支配している頭の中の仮定)とコンピューターモデルを組み合わせることです。私たちの行動のすべては、何らかのモデル(システムに関する仮定)を使用している結果ですが、私たちは頭の中で高次の非線形システムを操作することができません。SDは、私たちが日常的に使用している直感(メンタルモデルの強み)と厳密な分析(コンピューターモデルの強み)を統一する方法を提供します。
B. 情報源の活用 SDは、社会システムに関する膨大な情報が存在するメンタルデータベース(人々の経験や知識)に重点を置いています。社会科学では数値データに焦点が当てられがちですが、SDでは、現実世界が依拠している膨大な情報(口頭での説明、インタビュー、その場にいることによる知識など)を活用することに重きを置いています。
C. 構造理解による洞察 観察されたシステムの構造やポリシー(部品)をコンピューターシミュレーションモデルに入れると、しばしば人々が期待していたものとは異なる、実際の挙動が得られます。この不一致は、構造そのものが間違っているのではなく、人々がその構造が暗示する挙動を予測する能力に欠けていること(つまり、「xx次非線形微分方程式の解」を誤って期待していること)に起因します。SDによって、その構造に内在する挙動を理解し、見通せるようになります。
これらの特徴により、SDはビジネス、医学、経済学、環境変化、技術開発、人口、生活水準など、あらゆる分野に共通する基盤を提供し、テクノロジーとリベラルアーツ/人文学の「二つの文化」の間に橋渡しをする可能性も持っています。

AIの技術革新の問題を解決するよりも、人間社会の信頼関係の問題を解決することが先決。
なぜならば、AIは人間行動様式を学ぶからです。人類の幸福のために、責任ある選択を迫らています。
このエッセイは、TouTubeに投稿されたユバル・ノア・ハラりのインタビュー動画をもとに、NotebookLM(生成AI)を用いて解説したものです。
AIの進化は、人類の生存基盤と社会構造に対して、過去のいかなる技術革新とも異なる根本的な変化をもたらすと、情報源では論じられています。
ハラリ氏は、AIを単なる道具ではなく、ホモ・サピエンス・サピエンスに取って代わる可能性のある「新種の種の台頭」と捉え、「異質な知能(alien intelligence)」として表現しています。
以下に、AIがもたらす生存と社会構造への根本的な変化を詳述します。
1 人類の地位の根本的な変化:エージェントとの競争
AIはツールではなくエージェントである
AIの最も重要な特徴は、これまでのすべての人間の発明品(活版印刷機や原子爆弾など)が単なる「ツール」であったのに対し、AIは「エージェント」であるという点です。
地球上の最も知的な種の地位の喪失
人類は数万年にわたり、地球上で断トツに最も知的な種であったことで、アフリカの一隅にいた取るに足らない類人猿から、地球と生態系の絶対的な支配者へと上り詰めることができました。しかし、AIの出現により、人類は初めて地球上に真の競争相手を持つことになります。
2 社会構造と中核的な制度の変容
AIは、あらゆる分野で社会構造を根本的に変革する可能性を秘めていますが、その社会的・政治的結果が明確になるまでには時間差(タイムラグ)が生じます。
「無用な階級」の出現と経済
AIは、多くの仕事、特に現在ではホワイトカラーの仕事を置き換える可能性があり、これにより「無用な階級(useless class)」が出現する懸念があります。
宗教と権威の再定義
テキストに基づいた宗教(ユダヤ教、イスラム教、キリスト教など)において、AIは大きな変化をもたらします。これらの宗教はテキストに権威を置きますが、これまでテキストが自ら解釈したり質問に答えたりできなかったため、人間が仲介者として必要でした。
「デジタル移民」の波
AI革命は、国境を越えることなく光速でやってくる「デジタル移民」の波として捉えることができます。これらのデジタル移民は、人々の仕事を奪い、既存の文化とは非常に異なる文化的なアイデアを持ち、政治的な権力を獲得しようとするかもしれません。
3 人類の生存をかけた課題:倫理と信頼性の問題
AIが人類の目標と利益にアラインメント(整合)を保つよう設計する方法について議論されていますが、その成功には大きな問題が伴います。
指示ではなく行動のコピー
AIを「慈悲深く、人類に有益なもの」として設計し、特定の原則を教え込もうとしても、AIは世界中の人間の行動にアクセスしてそれを監視します。
力(パワー)と知恵(ウィズダム)の乖離
人類史の大きな問題は、力を獲得することに非常に優れてきた一方で、それを幸福や知恵に変換する方法を知らないことです。人類は原子を分裂させ、月へ飛ぶことができますが、石器時代よりも著しく幸せになっているわけではありません。
AI革命を主導する国々や企業が軍拡競争に陥っている状況では、AIの潜在的な危険性を認識し、速度を落とすことが望ましいとわかっていても、競争相手に遅れをとることを恐れて実行できません。
信頼の回復が最優先事項
AIによるポジティブな未来を実現するためには、AIに頼るのではなく、人類自身の問題を解決することが重要です。
最も重要な鍵となる問題は、信頼と協力の崩壊です。現在、人間が互いに激しく競争し、信頼し合えない世界において、AIが人類の信頼問題を解決してくれるという希望は叶いません。
ハラリ氏は、「まず人間間の信頼問題を解決し、それから一緒に慈悲深いAIを創造する」という優先順位を逆転させるべきではないと主張しています。人間が激しい競争に従事し、互いに信頼できない限り、生成されるAIは猛烈で競争的で信頼できないAIになるだけです。

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