一時期、心配されたギリシャ危機は、銀行への資本注入、痛みを伴う緊縮財政の結果、最悪の状況を完全に脱し、ユーロ圏経済は弱含みながら回復に向かっています。また、米国経済は、自動車ローンの積み上がりで不良債権が増えていることが気がかりですが、雇用もしっかりしており、大崩れはなさそうです。我が国経済は、労働需給の逼迫を映して、今後、非正規社員を中心に賃金上昇が起こりつつあります。一部業種で製品サービス価格への転嫁が進み物価上昇圧力は着実に高まっています。長期金利上昇を抑えるため、現在、日銀は積極的に金融資産の買い入れを行っています。
しかしながら、世界の政治状況の目を転ずると地球温暖化、核廃絶といった人類にとって深刻なテーマに関して否定的なトランプ政権、民主化を抑え込む習政権、経済が疲弊しながらも版図奪回を夢想するプーチン政権などナショナリズムが高まりつつあります。経済が良好なうちは、国際秩序は維持できますが、未曾有の金余り状態にあるグローバルマネーは、ほんの些細な事象で経済の均衡状態が崩れ、逆回転するリスクをはらんでいます。それが何で何時かは予測できませんが、過去、金融恐慌がきっかけで、第二次世界大戦という不幸な歴史が刻まれた事実を忘れてはいけないと思います。
1.モチベーションに関する新たな知見
組織行動学,心理学,経営学における最新の実証研究で,組織成員のモチベーションの水準が,組織のパフォーマンスの水準に正の強い相関関係があることがわかってきました。米国マッキンゼーの元パートナーであるニール・ドシ,リンゼー・マクレガーなどが中心となり開発した「総合動機指数」は,業績との相関関係が0.8と非常に高いことで知られています。
これまで,多くの経営者は,定性的あるいは直観的に,組織成員のモチベーションを高めれば,組織のパフォーマンスが高まることを知っていましたが,この総合動機指数の開発によって,モチベーションを,定量的に測定し,時系列または様々な属性で層別による比較が可能となり,財務数値など重要な経営指標のように分析できる時代になりました。同指数が広範に活用されるようになれば,業界平均との比較が可能になる日も遠くないと思われます。
2.閉塞感が漂う組織風土
戦後から1980年代末まで,我が国の多くの企業が,新卒採用,終身雇用,年功重視の人事システムによって,忠誠心の高い社員による知識・技術,技能の内部蓄積を行い,組織の学習能力を高め,国際的な競争力を培い繁栄してきました。一方,社会の構成単位である家族,地域コミュニティは,こうした企業のニーズに対応しながら,その社会的役割を変化させてきました。しかしながら,90年代前半のバブル崩壊とその後の急激な円高を背景に,戦後の繁栄を謳歌してきた多くの大手製造業が,大幅なコスト削減と海外への生産移転を進め,国内従業員のリストラに踏み切りました。戦後,多くの働き手が抱いていた企業に対する忠誠心は薄れ,個人の成果重視の評価制度の導入によって,社内競争が激しくなり,同僚との強い紐帯が弱体化してしまいました。
労働集約的かつ標準化になじむ業務の多くが,製造業,サービス業問わず,賃金の安い非正規労働者やパート社員に置き換わりました。ひとつの組織に多様な就業形態,賃金水準の社員が混在し,また,転職市場の拡大により雇用の流動性が高まる中,組織への求心力は深刻なまでに低下しつつあります。
これまで我が国企業の強みであった自発的な知識・技術および技能の蓄積と伝承といったダイナミックな進化プロセスが滞り,それに代わる新たな進化プロセスを,いまだ見出せない状態が続いているようです。
3.優れた社風の構築に向けて
ピーター・ドラッカーは,1997年に「ネクスト・ソサエティー」の中で,21世紀に入り,企業の特殊関係的な知識・技術・技能を持つ肉体労働者から,専門知識を有した知識労働者にとって代わる時代になると予測しています。知識労働者は,生産手段としての知識をポータブルな形で所有します。これまで経済が社会を変えてきたが,今後は,社会が経済を変えると予言しています。
ICT分野の権威である米国Wired氏編集長で,著述家のケヴィン・ケリー氏,シリコンバレーのIT起業家として注目されているマーティン・フォード氏によると,昨今のIoT,AI,ロボットなどみられる急速な技術革新により,標準化できる仕事,予測可能な業務を主とする仕事を機械やコンピュータに置き換えるコストは劇的に低下しつつあり,10年もたたないうちに,急速に普及していくと予測しています。汎用化,標準化した知識は,ますます機械やコンピュータに置き換えられるため,事務や肉体労働を主体とする単純作業者の雇用機会は失われることになると思われます。また,医師,弁護士,会計士など高収入で安定している職業であっても,人間理解や職業倫理にもとづく専門的かつ高度な価値判断は,置き換えることができませんが,業務のかなりの部分が同様に置き換えられることになります。
フランスの文明評論家,ジェレミー・リフキン,京都大学経済学教授の宇沢弘文博士は,今後は,製品サービスの供給を中心とする市場経済から,経験価値を創造する共有型経済へと重心が移行するであろうと予測しています。市場資本,国家,消費者が主役の時代から,共有資本,コミュニティ,人間が主役の時代へと変質していくと思われます。増大する知識労働者は,それぞれの個性,才能を生かし,高められる組織文化を有する職場を選択するため,彼らにとって魅力のない組織は衰退していくと思われます。
組織学習理論の開拓者であるハーバード大学のクリス・アージリス教授は,モチベーション,コミュニケーション,ビジョンの3つを組織の3要素と呼び,これら3要素が互いに強化し合いながら組織風土を良好ならしめ,繁栄が導かれると論じています。社会の在り方が経済の在り方を規定する時代に,営利企業が繁栄し続けるためには多様な働き方,多様な就業形態に対する社会的ニーズを先取りし,優れた社風を築き,プロフェッショナルな人材を数多く育成,雇用していかなければならないと思われます。
フランスの政治学者ドミニク・モイジ氏は、民主主義と資本主義の柱とする西側世界をけん引してきた役割が、米英から、今やドイツやフランスに移ったと指摘する。大衆迎合主義がEUを侵食しており、イタリアの国民投票で憲法改正が否決され、レンツィ首相が辞任に追い込まれた。EU加盟国内の南北んの経済格差が広まり、人々に不満が膨らむ中EU内の紐帯は緩くなってきている。欧州統合の支持率は2006年の60%から2016年に30%まで低下してる。イタリアの元世界銀行エコノミストのウーゴ・パニック氏は、もし来年のフランス大統領選挙で国民戦線のルペン党首が勝てば、反EU戦力が強まり、欧州統合が危機に瀕すると予測する。欧米諸国(日本を含むG7各国)は、ロシアや中国など大国に抗する勢力均衡としての役割を果たしてきたが、今後、大衆迎合主義の風が一段と吹けば、ますます国際情勢は混とんとせざるを得ないだろう。
フランス歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は、新たな保護主義の時代に突入したと指摘する。そもそも産業発展は保護主義とともに起きた。米国はリンカーンが関税を30~40%にして始まった。欧州では、ドイツがビスマルクの保護主義で飛躍的に成長した。自由貿易が利益になる段階はあるが、行き過ぎると格差が生まれ、最先進国での工員の給与を抑制し、最終的に需要不足に陥る。行き過ぎた自由貿易は経済を停滞させる。グローバル化は特に英米で途方もない格差を生み、日独仏にもある。この格差は資本の移動の自由と、低賃金の労働力を使うことで生まれた。経済的な生き残りに必死となり、子供を持つ余裕がなくなるため、日本や韓国、ドイツでみられるように出生率は低下する。
中国でシェアリング(共有)サービスが活発である。海外でも定番となった自動車の相乗りや「民泊」に加え、乗り捨てできる自転車が急速に普及。家庭の味など個人の料理のお裾分けサービスも人気を集める。かつてのような経済成長が見込めない中、出費を抑えて快適に暮らしたいとという消費者の意識の高まりを国内発のベンチャー企業がとらえている。
フランス経済学者のジャックアタリ氏は、日米と中国の紛争が今年最大の脅威になると予想する。今日の世界は1910年ごろの世界と比較できる。当時も、科学技術は進歩し、民主主義は機能し、グローバル化が進行していた。世界が民主的で満ち足りた発展を手にすることも可能であったが、閉鎖的なナショナリズムの台頭が二度の世界大戦を生み出した。トランプ氏はロシアを友、中国を敵とみなしている。南シナ海で人工島を建設する中国の動き、核・ミサイル開発を強行し続ける北朝鮮の動きなどを加算すると、アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海、南シナ海で起こりうるすべてのことが心配である。もし、将来、日米と中国が戦争になれば、世界戦争に拡大する。この他に、軍事的火種は、①ロシア対ウクライナなどの旧ソ連圏、②インド対パキスタン、③中東・アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織「イスラム国」。「世界の警察官」はいない。米国オバマ政権時代にその役回りから降りた。米国は世界から手を引きつつある。2006年に米国から撤退する世界に警鐘を鳴らしたが、現実のものとなりつつある。
1980~90年代は貿易黒字が大きかったが、2011年度以降は貿易赤字が4年続いた。2015年度は黒字に転換したが、もとの水準にもどるほど勢いはない。1980年代後半、日米間の貿易摩擦が高まる中、我が国企業が積極的に海外直接投資を増加させた結果、現在にいたるまで、海外からの利子、配当など所得収支が持続的に増大している。加えて、2000年代から特許など知財収支が黒字化、2014年度以降は、さらに旅行収支が黒字化している。
リーダシップ論の大家であるジョン・P・コッター教授は、リーダーシップについて以下のように述べている。
『組織とは,本来,メンバーの才能を育み,指導力の発揮や失敗や成功から学ぶことを奨励すべきである。
リーダーシップは「スタイル」ではなく「質」である。』
コッター教授は、リーダーシップの本質を研究する中で、10の教訓を導き出している。
教訓1:重要な組織変革を導くのは,どのような手法であれ,息の長い仕事であり,複雑な8段階のプロセスからなる。
教訓2:変革は,数次にわたる複雑なプロセスを経て完遂される。
・抵抗が強いほど,変革を成し遂げるのは難しい。利益が大きいほど,正しいビジョンを持つ必要性は大きい。組織の底辺の人々への依存度が高いほど,彼ら彼女らの参加を促す必要性は高い。
教訓3:20世紀の歴史とその時代に培われた企業文化の影響を受けた人々は,大きな変革を実行しようとする際に,皆同じような過ちを犯す(これには多くの理由がある)。有能で正しい志を持ったマネージャーですらその例外ではない。
教訓4:リーダーシップとマネジメントは別物である。
・意義あり変革を導く原動力は,リーダーシップであって,マネジメントではない。
・リーダーシップとは,ビジョンと戦略をつくり上げ,戦略の遂行に向けて,それに関わる人々を結集し,ビジョンの実現を目指している人々にエンパワーメントを行うなど,障害を乗り超えてでも実現できることである。
・マネジメントとは,計画立案,予算作成,組織化,人員配置,コントロール,そして問題解決を通して,既存のシステムの運営を続けることである。
・マネジメントは,現在の組織の運営システムをうまく機能させ続けるが,リーダーシップは,組織の運営システムそのものをよくするために,大きな変革を行う。
教訓5:変化のスピードが速まっているため、組織を動かすうえでのリーダーシップの重要性が高くなっている。
・マネジメントとリーダーシップの時間割合
1980年代末まで | 1990年代以降 | |
製品のライフサイクル(年数) | 15年 | 4年 |
優秀なトップ・エグゼクティブの場合:
マネジメント対リーダーシップ |
6:4 | 2:8 |
教訓6:組織を動かす人々は,マネジメントをリーダーとしての仕事の両方をこなすようになっている。
・マネージャーとしての仕事:計画と予算を策定し,階層を活用して,職務遂行に必要な人脈を構築し,コントロールすることによって,任務をまっとうすることである。
・リーダーとしての仕事:ビジョンと戦略をつくり上げ,複雑ではあるが,同じベクトルを持つ人脈を背景に実行力を築き,社員のやる気を引き出すことで,ビジョンと戦略を遂行する。
・マネージャーとリーダーに共通の仕事:課題を設定し,課題達成を可能にする人的ネットワークを構築し,課題を達成させる。
教訓7:マネジメントは組織のフォーマルな階層を通して機能する。リーダーシップは,インフォーマルな人間関係に依存する。
教訓8:リーダーは,複雑かつインフォーマルな人間関係を操りながら組織を動かす。
教訓9:命令するという仕事はさほど重要ではなくなっている。周囲の人々と仕事のうえで良好な関係を築くことが課題として重みを持つようになってきている。
教訓10:有能なマネージャーとは,①現状の維持と改革を同時に取り組み,②縦横の人間関係を良好に保ち,③命令よりも質問の数が圧倒的に多い。
・変革への準備ができている組織の特長(21世紀のリーダーシップ)は、どんなときでも危機感を高め,慢心を避けようとする。
また、チームワークを重視し,必要があれば変革の推進に向けて組織を統合することができる。
・あらゆる階層が常にビジョンを抱き,必要に応じて,その内容を修正し,多くの人に絶えず伝達する。そこで働く社員は,新しい目標に挑むように,いつでも権限が与えられている。
マネジメント | リーダーシップ | |
役割
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・演繹的に計画を策定する。
・現在のシステムに秩序と一貫性をもたらす。 ・複雑性に対処する。 |
・帰納的に針路を設定する。
・現在のシステムを改革する。
・変革を推進する。 |
流儀
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・込み入った環境をうまく泳ぎ切るために,計画の立案と予算策定から着手する。
・将来の目標(翌月,翌年)を定め,その達成に向けて詳細な実行ステップを決め,計画を完遂するために経営資源を割り当てる。 |
・発展的な組織変革の端緒を開くために,まず針路を設定する。
・将来ビジョンを実現するための変革を用意する。 |
・組織化と人材配置によって計画を抜かりなく達成することに取り組む。 | ・1つの目標に向けて組織メンバーの心を統合する。
・互いに手を取り合って,ビジョンを理解し,その実現に尽力できる人々に新しい方向性を伝える。 |
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手段
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・計画を達成するための手段は,コントロールと問題解決の2つである。
・フォーマル,インフォーマルの両面から,計画と実績を綿密に比べ,両者の間にギャップが生じていないか目を光らせ,問題があれば,それと解決すべくプランを準備する。
・フォーマルな組織構造が,マネージャーたちの行動を条件づける。 ・いかにうまく組織を設計するかが決め手。
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・ビジョンを達成するための手段は,動機づけと啓発の2つである。
・価値観や感性といった根源的ではあるが,往々にして眠ったままの欲求に訴えかけることで,大きな障害を乗り越え,皆を正しい方向に導く。
・健全な企業特有のカルチャーを基盤にしたインフォーマルで緊密な人間関係がリーダーたちの行動を条件づける。 ・いかにコミュニケーションを図るかが決め手。 |
社員へのアプローチ | ・物事をできるだけ計画的に忠実に,しかも効率的に進めるために組織編成を行う。
職務体系,指揮命令系統の決定,適材適所の人員配置,必要に応じた研修の実施,社員への計画の説明を行う。 ・計画に向けた報奨制度の用意,実施状況を把握するための仕組みづくりを行う。
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・リーダーにとっては,信頼を得られるかどうか,伝えようとする内容を信じてもらえるかどうかが,腕のみせどころ。
・信頼されるには,それぞれの実績や誠実さ,信頼製についての評判はどうか,言行が一致しているか,伝えようとするメッセージの内容はどうか。 ・組織全体に明確な針路が示されていれば,全員が同じ目標に向かうことができ,外部環境の変化にうまく対応できない無力感にさいなまれず,行動できるようになる。 |
企業変革の8段階
第一段階:緊急課題であるという認識の徹底
市場分析を行い,競合状態を把握する。
現在の危機的状況,今後の表面化しうる問題,大きなチャンスを認識し議論する。
第二段階:強力な推進チームの結成
変革プログラムを率いる力のあるグループを結成する。
一つのチームとして活動するように促す。
第三段階:ビジョンの策定
変革プログラムの方向性を示すビジョンを策定する。
推進チームが手本となり,新しい行動様式を伝授する。
第四段階:ビジョンの伝達
あらゆる手段を利用し,新しいビジョンや戦略を伝達する。
推進チームが手本となり,新しい行動様式を立てる。
第五段階:社員のビジョン実現へのサポート
変革に立ちはだかる障害物を排除する。
ビジョンの根本を揺るがすような制度や組織を変更する。
リスクを恐れず,伝統にとらわれない考え方や行動を奨励する。
第六段階:短期的成果を上げるための計画策定・実行
目に見える業績改善計画を策定する。
改善を実現する。
改善に貢献した社員を表彰し,報奨を支給する。
第七段階:改善成果の定着とさらなる変革の実現
勝ち得た信頼を利用し,ビジョンに沿わない制度,組織,政策を改める。
新しいプロジェクト,テーマ,メンバーにより改革プロセスを活性化する。
第八段階:新しいアプローチを根付かせる。
新しい行動様式と企業全体の成功の因果関係を明確にする。
新しいリーダーシップの育成と引継ぎの方法を確立する。
参考文献:
リーダーシップ論―いま何をすべきか (ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス経営論集) 単行本 – 1999/12
ジョン・P. コッター (著), John P. Kotter (原著), 黒田 由貴子 (翻訳)
著者紹介:
ジョン P・コッター
John P. Kotter
国籍:米国
肩書:ハーバード大学ビジネススクール名誉教授
生年月日:1947
出生地米国: カリフォルニア州
学歴:マサチューセッツ工科大学卒;ハーバード大学卒
経歴:
・ハーバード大学などを経て,ハーバード大学ビジネススクールの松下幸之助記念講座名誉教授。史上最年少の33歳で同校終身教職権を取得した。
・企業におけるリーダーシップ論の権威として国際的に知られ,グローバルリーダーに対する変革的リーダーシップの指導を目的としたコッター・インターナショナルの創設者でもある。
・著書に「パワー・イン・マネジメント」「ザ・ゼネラル・マネジャー」「組織革新の理論」「パワーと影響力―人的ネットワークとリーダーシップの研究」「変革するリーダーシップ」「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」「21世紀の経営リーダーシップ」などがあり,著作は120ケ国語以上に翻訳されている。
内閣府の国民経済計算確報によると、土地や住宅などの資産(1京200兆円)から負債(6,900兆円)を差し引いた国全体の正味資産(国富)は2015年末時点で3,300兆円ととなった。1997年末3,600兆円弱から300兆円減少している。ここ数年は、海外投資家の株保有が増えると、同時に対外負債残高が膨らんだことが国富の押し下げ要因である。
ドラッカーは,「現代の経営」の中で,「人的資源,すなわち人間こそ,企業に託されたもののうち,最も生産的でありながら,最も変化しやすい資源である。そして最も大きな潜在的な力を持つ資源である」と述べている。
1980年代,自動車や家電,精密機器の分野で,米国大企業は日本との競争で大敗した。生き残りを賭けて大胆なダウンサイジングと同時に,企業文化のレベルで大胆な改革を行った。その取り組みは,大きなパラダイムシフトをともなうものであった。
1980年代末までの経営者教育は,下表に示すとおり,マネージャーを育成するための教育が中心であり,専門性,機能性を高めることを重点にカリキュラムを組んでいたが、1990年代以降、変革に必要なのは,個々人のリーダーシップ能力開発であり,多くのリーダーの存在である、と考え経営者教育の在り方を抜本的に変えることになる。
当時のGEなど米国大企業は、経営トップが指し示す針路,戦略を全社的かつ末端まで浸透させ早期に実現する必要に迫られていた。そのため,これまでごく一部の経営幹部を著名な大学のオープン講座へ送りマネジメント能力を身につけさせていたが,受講対象者を中堅幹部まで広げると同時に,大学と提携して企業内講座を開設し実践的な内容を通じて,リーダーシップ能力を開発する方向へ舵を切った。
現在では,企業内大学をつくり教育にかける時間は80年代末の1.5倍から2倍,受講者数は2倍から5倍へと増やしている。我が国においては,すでにグローバル展開している大企業である総合商社,重電,総合化学メーカなどが2000年代から徐々に,リーダーシップ教育に力を入れるようになり,同様な研修制度を取り入れつつあるが,そうした一部の大企業を除けば,ほとんどの企業が周回遅れであり,経営トップの意識もパラダイムは,ほとんで変わっていないのが現状ではないだろうか。
中華経済圏に位置する中国,韓国,台湾,シンガポールの大企業のほうが我が国よりも先行しているのが残念ながら現状である。特にデジタル革命の先駆者であった米国は,製造機能に限らず,サービス機能まで含む企業活動のあらゆる分野で情報通信技術を活用し労働生産性を改善させてきた。また,情報通信技術を新たなビジネスモデルの開発に生かし,競争力を飛躍的に強化してきた。こうした変革を断行するにあたって,最も重視したのが,リーダーシップ能力の開発である。
経営者教育の変化(米国のケース)
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